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少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。
2021/02/05
心理カウンセラーという仕事をしていると、「(落ち込んでいる友人などに)どんな言葉をかけると良いのでしょう?」と尋ねられることがよくあります。
苦しんでいる人の話を聴くのが仕事なのだから、それは気の利いた言葉をかけるのだろうと思われているのかもしれません。
しかし、残念ながら、相手のつらい気持ちが伝われば伝わるほど、かける言葉など見つからないものだと痛感しています。
相手のこころを癒す万能の言葉はないものかと、米国ウェイン州立大学のシャウナ・タナー氏らが、300人以上の10~15歳の子どもたちにいくつかの励ましの言葉を提示し、つらい状況でどの言葉にどのくらい励まされるかを尋ねた研究があります。
その結果はというと、子どもたち全員から、特に励ましになると選ばれた言葉はありませんでした。しかし、同時に、どの言葉でも、概ね励ましになっていることがわかったのです。
この研究は後に、大人を対象にした調査でも同様の結果となり、さらに、特定の性格や職業に限って調査をしても、普遍的に強力な励ましの言葉など無いことがわかりました。
この研究結果からは、多くの人が励まされるのは、言葉の内容そのものではなく、耳を傾けてくれる人がいるという事実からだということが明らかになったといえます。否、もしかすると、つらい時間をただ一緒にいてくれるだけで、人は励まされ癒されるのかもしれません。
昔、家族を亡くして悲嘆に暮れていた私を毎日訪ねてくれた友人がいました。彼女は、私の隣でつけっぱなしのテレビを一緒に眺めて帰るだけでしたが、その優しさにどれほど救われたことでしょう。
どんな言葉が心を癒してくれるのかについて、人はそれぞれの価値観や好みがあり、おそらく答えはないのかもしれません。
けれど、だからこそ恐れずに、あなたが心配している人に、あなたらしい言葉をかけてみてはいかがですか?
坂田 真穂(さかた まほ)
日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。
相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。