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少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。
2020/12/04
先日読んだ本に、「人を誉める時には、その能力の高さを誉めてはいけない」と書かれていました。
能力を誉められた人は、失敗をしたときに、その原因を能力不足だと認識するため、それが露呈しないようチャレンジしなくなるのだそうです。
では、何を誉めるのか?
人は努力の過程を誉められると、たとえ失敗しても努力不足あるいは努力方法の誤りだと考えるため、現実を受け止められ、失敗体験から学習し、新たな成功につなげられるということでした。
同じ経験でも、どう体験するかによって、傷になることも糧になることもあるのですね。
こうした失敗も含め、つらい体験から立ち直る力をレジリエンスと言いますが、心理学者のショーン・エイカーは、現状をぐるぐる回るだけの状態でもなく、挫折に打ちひしがれる状態でもない『第三の道』を発見することが、つらい体験に打ち勝つためには大切だと言っています。
以前は、重病や災害などはトラウマとなる体験でしかないと考えられていましたが、近年ではそうした最悪ともいえる出来事をきっかけに、ポジティブな心理的成長を遂げる人が少なくないこともわかってきました。
こうした成長は「心的外傷後成長」と呼ばれ、近年では、小児がん患者の60~95%が自らの体験から得たものがあると語るなど、多くのがん経験者が心的外傷後成長を体験していることが報告されています。
人生を生き抜くための知恵や力は、認知能力などとは異なり、加齢等によって低下することはありません。
しかし、年齢とともに必ずしも向上するわけでもないことが最近の研究で明らかになってきました。
こうした研究から、現在では、人生経験の豊富さがこうした力に結びつくのではなく、経験を振り返る機会を多く持つことこそがこうした力を高めるのだと考えられています。
失敗やつらい体験も、ただ目をそらすのではなく、その意味に向き合うことで明日の幸福の糧になるのですね。
坂田 真穂(さかた まほ)
日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。
相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。