少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。

君の名は・・・?

2020/09/04

 

出勤したときや出会ったとき、私たちは「おはよう」と声をかけ合いますが、欧米では「〇〇さん、おはよう」という風に、相手の名前を呼びながら挨拶することがよくあります。

 

挨拶や会話の中に相手の名前をはさむだけで、その後のコミュニケーションが円滑になるのですから不思議です。たしかに、ただ「コピーしてくれませんか」と頼まれるよりも、「〇〇さん、コピーしてくれませんか」と言われる方が気持ちが良いものですよね。

 

名前を呼ぶことは、相手を一人の「人格を持つ人」だと認めているというメッセージになります。

 

 

名前は、私たちが生まれて最初に慣れ親しむ音の1つであり、ある研究者によれば「子どもの自己に実体性や限定を与えていく役割を果たす」大切なものです。そのため、名前を呼ばれることで、自分の存在が認められ、尊重され、親近感を持ってもらえていると感じます。

 

また、人には与えられたものを相手にも返そうとする心理があります。これを「返報性の法則」と呼びますが、これによって相手から与えられた承認や親愛の情を無意識的に相手に向けるようになります。

 

そのため、相手の名前を呼ぶことは、互いの関係を良好にし、円滑なコミュニケーションに繋がるのです。

 

このことは、男女に15分間会話をさせ、会話の中で名前を呼んだ場合と呼ばなかった場合の印象を尋ねたところ、名前を呼んだ時の方が相手に好印象をもったという実験結果にも裏付けられています。

 

実際に人と会話する際に、名前を呼びかけることを意識して成功した人物は、田中角栄などを初め、歴史上にたくさんいます。

 

しかし、お気に入りの部下など特定の人だけ名前を呼ぶと、周りに嫉妬や不快感、疎外感を与えることになりますし、呼ばれた本人もセクハラやパワハラだと感じる危険性があります。

 

たかが名前、されど名前、上手に呼んで良い関係を保てると良いですね。

 

 

坂田 真穂(さかた まほ)

日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。

相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。

 

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