がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

Withコロナのがん治療② がん治療中に新型コロナに感染したら

2020/08/18

当センターはこれまで高度急性期病院として救急医療、がん治療を含む高度な医療を担ってきました。この使命は、2019年末に中国で流行した新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の国内流行があっても変わることはありません。

 

今年度、下半期に開設を予定している「がんセンター」も総合力を結集して進めており、今後も地域の皆さんの健康を職員一丸となって守っていく決意です。

 

新型コロナの収束には年単位の時間が必要と言われています。

 

当センターだけでなく、全国どこでも、すべての医療機関は新型コロナの感染症対策をしながら医療を提供していくことになります。

 

新型コロナの発症があっても、がんをはじめとするさまざまな病気は皆さんの健康を脅かします。それは、これまでと変わりません。ただ、患者さんには「新型コロナとがんを併発したら、どうなってしまうの?」といった新たな心配事が生まれました。

 

 

そこで今回は、もし、コロナと重大な病気が一度に見つかったらどうなるの?という不安にお応えしていきたいと思います。

 

 

感染症病床は院内感染を防ぐ構造と体制

前回、感染症病床という特別な設備のある病床から、院内感染によって新型コロナにかかる心配はないというお話をしました。

 

病院でかからなくても、もし、他の場所でかかっていて、がん治療時に新型コロナが見つかったら? どんな治療になるのか、気になる方もいらっしゃると思います。また、がんの患者さんが新型コロナにかかったらどうなるの?と不安な方も多いでしょう。

 

 

必要以上に心配しなくても大丈夫です。しかし、当たり前のことですが、新型コロナにかかったからといって、他の病気の進行が遅れるわけではありません。

 

がんに限らず、新型コロナ発症とその他の病気は関係なく、どんどん進行していきます。そして、進行すると病気は治しづらくなりますから、新型コロナの治療をしている間にがんが悪くなったらと思うと不安になるでしょう。

 

当センターとしては、「精一杯の治療をして、どちらも治す」選択しかありません。感染症の治療をしながら、がんなどその他の病気も治していきます。医師が治療の優先度や体力など総合的に考えますので、併発しても治療できます。

 

もし、新型コロナにかかっているから手術が難しいとなっても、放射線治療やホルモン治療、薬物療法を先にするなど治療の順番を変えて対応できます。こういった治療の選択肢は、大きな病院ほどたくさんあります。

 

感染症の専門医がいる病院なら、感染症とがん、それぞれを担当する医師がチームとなって知識を出し合い、最善の判断ができます。そういった意味では、新型コロナへの感染や治療が不安な方ほど、各分野の専門医が揃っている病院を選ぶと安心です。

 

ちなみに、新型コロナが手術に及ぼす影響ですが、だいたい手術の日取りは1ヶ月先くらいの日程で決まりますから、その間に新型コロナの治療が終わります。まずは感染症を治し、そのあとにがんなどの治療を進めていけばいいのです。

 

 

新型コロナが重症化しやすい、リスクが高い患者さんには、相応の対策を行います。

 

がん患者さんが新型コロナにかかったとしても、まず新型コロナを集中的に治療し、そのあとにがんをきちんと治療します。がん治療が一時中断となっても、後回しにはならない治療を考えますのでご安心ください。

 

 

検査、検診を延期することの弊害

 

前回の話と重複するかもしれませんが、新型コロナの感染や感染発覚が怖いからといって、各種検査や検診を延期するとデメリットも出てきます。検診は不急の医療かもしれませんが、新型コロナへの不安と比べて検診のメリットが上回ってくる状態では受けた方がいいです。

 

 

和歌山県の人口は2019年の推計では約923,700人で、感染が確認された人は2020年5月の段階で63人でした。がんは生涯でみると、2人に1人がかかると言われていますから、自分が感染する可能性とがんになる可能性を比べると、新型コロナばかり怖がっていられないことが分かります。

 

例えば、胃がんが内視鏡カメラで取り切れないほど進行すれば手術することになり、辛い思いをするかもしれません。進行すれば治りづらくなり、再発の確率も上がります。バランスを考えて、必要以上に新型コロナへの恐怖を感じないようにしましょう。

 

いつ、どんなときでも、治療は人それぞれです。

 

 

新型コロナに関わらず、医師は患者さんの最善のためにいろいろなパターンを考え、選択していますので、安心して新型コロナの治療も、がんなど他の病気の治療も受けていただければと思います。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを務めるがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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