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2020/08/07
新型コロナウィルス感染症の流行により、外出時のマスク装着はすっかり新常識になりました。
しかし、実は、衛生上の理由がないにもかかわらず「だてマスク」を着ける人の多さが10年ほど前から指摘されていました。「だてマスク」を着ける理由の1つとして、マスクを着けた方が、外見的好感度が上がるということがあります。
カナダで行われた研究では、顔の半分が隠れているなど、見えない範囲が広いほど魅力が増すことが報告されています。
3つの点の集合を人の顔だと認識しがちな脳の働きを「シミュラクラ現象」と呼びますが、顔の一部が見えない状況であれば、脳が無意識に補正してより美しい顔を作り出してしまうためです。
また、女性は、マスクですっぴんを隠したり、男性は無精ひげを隠すことができるという利点もあるでしょう。
2つ目の理由として、マスクで顔が隠れることで他人に自分の表情や感情を読まれづらくなり、安心感を得られることがあります。
他人にどう見られるかという不安が軽減されるため、対人恐怖症の人がマスクをつけることで、社会的活動が行えることもあります。
しかし、マスクへの依存が強くなると、他者とのコミュニケーションに支障が生じる危険性もあります。
たとえば、マスク着用により顔が隠れると、人前に顔をさらしている時にはしない行動をとりやすくなります。普段より不愛想になったり、他人や社会に対して攻撃的になるなどです。これを心理学では「没個性化現象」と呼びます。
また、マスクを着けているときには口や鼻の動きが確認しづらいことから、ノンバーバルコミュニケーション(表情や声などの非言語コミュニケーション)が困難になります。
動揺したときやり、興奮時に見られる鼻の穴を膨らませるという動きや、恐怖や緊張で口を一文字に閉じる様子を見落としてしまうこともあるでしょう。
衛生的理由からマスク装着の必要がある時期だからこそ、意識的に相手の気持ちに想像力を働かせたり、言葉によるコミュニケーションを増やす必要があるかもしれませんね。
坂田 真穂(さかた まほ)
日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。
相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。