日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

多様な診療の選択と継続をバックアップ

2020/06/25

腎臓内科では、地域の医療機関と連携し、地域で患者さんを見守る取り組みを進めています。患者さんの日常的な健康管理や継続的な治療は地域のかかりつけ医が行い、当センターでは専門的な検査や集中的で高度な医療を提供するものです。

今回は、東 義人 腎臓内科部長に、「2人の主治医制」と掲げた地域の医療機関との取り組みが患者さんにもたらす利点や具体的な体制について詳しくうかがいました。

 

患者さんが、地域のかかりつけ医と日赤和歌山医療センター腎臓内科の両方にかかることは、どんなメリットがありますか?

 

まず、それぞれが担う役割が違いますので、2人の医師に違う視点からサポートしてもらえるという点が最大のメリットです。

 

かかりつけ医は、患者さんをいちばんよく知る存在で、ちょっとした変化にも気づいてくれます。患者さんもよく顔を合わせる かかりつけ医になら、不安を打ち明けたり、体調の相談をしたり、気軽にできるという方も多いでしょう。

 

 

一方で、当センターは和歌山県北部の高度救命救急センター、地域がん診療連携拠点病院(高度型)、地域医療支援病院としての役割も果たしています。その役割には、疾患の確定診断をする、手術や高度な治療を提供する、治療の選択肢を幅広く提示をするなども含まれます。多様な診療科がありますし、医師以外の専門職もたくさんいますから、総合的な診断やアプローチができます。

 

気になる症状があれば、まずはかかりつけ医に相談し、専門的な治療が必要になった場合に大きな病院へ紹介されることは、国の施策としても進められています。

 

具体的に、腎臓内科についてお話しますと、「蛋白尿や血尿が出ている」という検査結果に対して、腎臓の機能を見るだけで終わりません。気になることがあれば、他の診療科にも相談して、全身をチェックします。腎臓ではなく、他の疾患によって「蛋白尿や血尿が出ている」かもしれないからです。腎臓の検査から、最終的には腎臓以外のところにがんが見つかることもあります。最新鋭のさまざまな検査や診療ができるから、総合的な診断ができるのです。

 

 

「検査のために、平日にわざわざ日赤に行かないといけない」「他の病院にかかっているのに、定期的に日赤にも行かないといけない」というのは大変かもしれませんが、複数の目で診断することは、患者さんによりよい医療を提供するためなのです。分かっていただけたら、うれしいですね。

 

 

地域のかかりつけ医との連携で得られた成果を教えてください

 

腎臓疾患は1〜2年で数値が大きく変わるということはなく、一般的には長い経過をたどります。しかも、手術をすれば完治するというものでもなく、薬を飲み続けながら生涯にわたって付き合う病気です。そのため、薬の処方などは、通いやすいかかりつけ医で行っていただくことになり、連携が不可欠です。

 

その中で、何が課題になってくるかというと、患者さんの治療へのモチベーションの維持です。腎機能の低下があってもほどんどが無症状で、次第に腎臓が働かなくなって人工透析や腎移植などに至ってしまいます。私たちは患者さんの20年、30年先の体の状態を考えながら治療をしていますが、患者さんからすると、何年も「特に変わったところはないですね、このまま同じ薬を続けましょう」が続くわけです。そのような中で、治療へのモチベーションが下がってくることがあります。「もう、いいかな…」と食事療法や薬を勝手に止めてしまう、最終的に病院へ通うことすら止めてしまう患者さんもいます。

 

 

でも、かかりつけ医と当センターの腎臓専門医と、2人の医師に同じことを言われると、ずいぶんと患者さんの意識は変わります。定期的に来てくれている患者さんは、「まぁ、いいかな…」がずいぶんと少なく、きちんと薬を飲んで食事療法もしてくれているのを実感します。”複数の人に見られている”ことで、治療へのモチベーション、頑張っていこうという気持ちが下がらないんですよね。通院は大変かもしれませんが、現状を悪化させないために大切だと分かっていただけたら・・・。

 

 

もちろん、継続的な通院によって、かかりつけ医が行っている血液や尿の検査から診る腎臓の機能チェックだけでは分かりづらいことが、日赤でのさまざまな検査で判明することもありますし、管理栄養士の栄養相談を受けて、よりよい食事療法を実践できるようにもなっていきます。今の腎臓病は、糖尿病や高血圧が原因で起こることも多くなっているのですが、そういった別の病気の影響を受けているかどうかも、当センターの専門医が見ることで判明することもあります。高度専門医療のサポートがあることで、治療のレベルが上がるのは明らかです。

 

かかりつけ医と当センターの専門医が連携して適切な治療を続けていくと、何もしないで過ごしていたら40代で透析を導入しなければならないような腎臓の状態でも、60代、80代まで透析導入をせずに過ごせるようになることもあるんです。腎臓が完治しなかったとしても、透析をする期間を短くできる。開始時期を後ろへ伸ばすことができるわけです。それは患者さんのQOL(生活の質)の向上につながります。

 

 

東先生は非常に熱心に「2人の主治医制」を進められていますが、その原動力は?

 

和歌山県には3,000人ほどの透析患者さんがおり、毎年300人ほどが新たに透析治療を始められます。このうち、約95%が血液透析です。救急で当センターへ来られて、緊急透析になる患者さんも非常に多いのですが、その患者さんたちもほとんどが血液透析となります。

 

 

血液透析もいい治療法ですが、それ以外にも腎移植、腹膜透析、在宅透析などの治療の選択肢があります。週3回も病院に通わねばならない血液透析は、本当に大変です。仕事もしづらくなりますし、生活がガラッと変わってしまいます。在宅での透析を選択すれば、仕事を継続しながら治療できますから、働いている方にはオススメなんです。

 

私はそのような複数の選択肢を患者さんに提案して、患者さんにも無理のない治療法を選んでいただきたいと思っています。でも、選択肢というものは継続的な治療の中で相談しながら準備するもので、急に透析になったり、どうしようもなく悪くなった状態だったら、選択肢を用意する時間がありません。もっと早く診察に来てくれていたら、かかりつけ医でもらった薬をきちんと飲んでくれていたら…。血液透析以外の選択肢が提示できて、仕事も辞めずに治療を続けられたのに・・・。そういう患者さんへの思いが、私の原動力です。

 

かかりつけ医と日赤の専門医と、車の両輪のように2人が見守れば、患者さんのためになる医療を提供できると確信しています。かかりつけ医の先生方とそれぞれの役割を果たしながら連携し、これからも「2人の主治医」として患者さんを治療・サポートしていたいですね。

 

東 義人(ひがし よしひと)

腎臓内科部長 兼 健診部長 兼 医療技術部長。

日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医、日本人間ドック学会専門医。

詳しくはこちら

日本赤十字社 和歌山医療センター病院サイトはこちら

Share

この記事を気に入ったならシェアしよう!