少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。

思いやりは、自分にも・・・

2020/06/05

夕食時、つけっぱなしのテレビから戦争映画が流れ始め、食べ物にも事欠く登場人物を前に、テーブルに並んだ料理を食べられなくなってしまったことがあります。

 

私が食べなかったからといって、物語の人物が救われるわけではないのですが、なんだか自分だけ贅沢をしているようで苦しくなったのです。

 

このように私たちは、他者の境遇を前に自分だけその事態を免れることに罪悪感をもつことが珍しくありません。

 

被災者や犯罪被害者の中にも自分だけが生き残ったことへの罪悪感に苦しむ人もおり、こうした罪悪感は生存者罪悪感(サバイバーズギルト)と呼ばれています。

 

2019年にフロリダで起きた銃乱射事件の生存者が立て続けに自殺をしたという報道(注釈を文末に記載)も記憶に新しいことでしょう。なぜこのような罪悪感が生じるのか、その心理学的メカニズムは未だ明らかにされていません。

 

東日本大震災で心の支援に赴いた際にも、家を失った人は「家族を失った人もいるから」と言い、家族を失った人は「大きな怪我をしている人もいるから」と言って、自分のつらさを口にするのをためらっていたのを思い出します。

 

それぞれの苦しみを抱えていたにも関わらず、より大変な思いをしているであろう人への罪悪感から、「つらい」とこぼすことを難しくしていたのだと思います。

 

今回の新型コロナウイルス流行でも、私たちは同様の罪悪感を経験しているかもしれません。

 

隔離の不安や症状の悪化におびえながら闘病する人々、そして彼らのために献身的に働く医療従事者、多くの人の生活を支える仕事に携わっている人々がいる中で、何もしていない自分に対して罪悪感や居心地の悪さを覚えている人もいるでしょう。

 

しかし、その罪悪感を埋めようと過剰に仕事にのめり込んだり、過度に情報を閲覧したり、日々の不安や不満を抑え込んだりすることは大きなストレスを生むことになるかもしれません。

 

一人ひとりの状況や役割が異なる中で、相手の苦しさだけでなく自分の苦しさもケアしていけたらいいですね。

 

 

注釈…地元高校の元生徒が高校内に侵入し、非常ベルを鳴らして逃げまどう生徒らに半自動小銃を乱射、生徒14人と職員3人を殺害した。高校を立ち去ったのち警察に拘束、罪状を認めている。その後、生存した同級生や卒業生のうち2名が自殺したと報じられている。

 

 

坂田 真穂 (さかた まほ)

日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。

相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。

 

 

日赤和歌山医療センターHP

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