がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

がん治療と仕事の両立

2020/03/17

2019年4月に厚生労働省が全国にある392施設を「がん診療連携拠点病院」に指定しました。前回の記事でも申し上げたとおり、当センターは全国14施設のみの「高度型」に選ばれています。

 

 

高度型に指定された施設がそれほど多くない中で、当センターが選ばれたのは、がんの治療だけでなく、患者さんやご家族に対してのサポート体制や緩和ケアなど、がんの治療に必要なことを網羅していることが評価されたと思っています。

 

当センターががん患者さんへのサポート体制として整えている中には、治療方針の相談、痛みの緩和、治療や生活にかかる費用の相談、ご家族へのフォローなどいろいろあります。なぜご家族へのフォローも入っているかというと、がんという病気は患者さん本人だけでなく、ご家族にも大きなショック・衝撃を与えますから、患者さんだけでなくご家族へのケアもサポート対象の1つになっています。

 

 

少し前までは、病気は個人のものという考え方で、サポート体制は患者さん個人に対してのものだけでした。しかし、最近はその人を支える家族や周りの人たちもいっしょに支えていこうという意識が医療の現場でも高まっています。

 

 

がん治療は、仕事と両立することが大切

そのサポート体制にも含まれているのですが、今回お伝えしたいのは治療と仕事の両立についてです。治療して患者さんが元気になるのは素晴らしいことですが、私たちは治療して患者さんが元気になれば、それで終わりと思っている訳ではありません。

 

仕事をしている世代ががんに罹患した場合には、治療と仕事との両立を支援しなければいけません。というのも、私はこれまでに何度も「がんは不治の病ではなくなった」とお話しています。がんの治療は薬物療法や放射線治療など併用することが多くなり、長期の通院が必要な場合もあるのですが、治療すれば治ることの多い病気です。がんの治療が終わって元気になったとき、これまで務めていた職場を辞めてしまって、働く場所がなかったら? 生活が立ち行かなくなります。

 

私は常々、「日本人は本当に謙虚な人たちだ」と思います。ご自身のがんがわかると、「職場に迷惑がかかるから」などといって自ら退職を選ぶ人が非常に多いです。周りの人に気を使ってしまい、自分から辞めてしまうのです。しかし、そこで辞めてはいけません。

 

 

どうして辞めることが良くないかというと、当たり前のことですが、治療には治療費がかかります。だから、治療を続けていくためにも収入を維持しなければならないのです。

 

 

がんになったのは、あなたのせいではない

周囲に気を使って自ら仕事を辞めるという行動は、世界的に見ると珍しいのですが、とても日本人らしいと思います。けれど、安心して治療を受けるために、収入は必要です。がんと診断されても、治療と並行して生活は続いていきます。ご自身やご家族の生のためにも、仕事を辞めないでほしいと願っています。

 

 

私たちもそのような悩みをサポートするため、院内に設置している「がん相談支援センター」で、看護師や社会福祉士などの専門職が就労を含めた治療継続についての相談を受けられる体制を整えています。就労の継続や再就職についての相談がある場合には、就労を支援してくれる専門機関から相談員に来てもらい、院内で相談できるよう連携しています。ただ、相談員に来てもらいますので、相談されたい場合は、事前に相談日の予約をしていただいています。

 

国も患者さんの就労を支援していこうとしています。がん治療の中では『相談支援』と呼ばれるもので、当センターだけでなく全国のがん診療連携拠点病院には相談支援センターがあり、就労や治療費、治療方針の理解などの相談を受けています。

 

そして、この相談支援センターは、当センターで治療している患者さんだけでなく、相談支援センターのない他の病院で治療を受けている患者さんやご家族も相談できます。これは、全国どこのがん診療連携拠点病院でも同じで、どの病院で治療されていても、相談や支援を受けられるようになっています。

 

 

ご自身やご家族だけで抱え込まず、私たちと相談しながら、仕事と治療の両立を目指しましょう。がんが治って元気になれば、また、第二の人生ともいえる生活が始まります。そのときに困らないように、仕事の維持や復帰を考えながら、治療もしっかりとしていきましょう。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを務めるがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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