少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。

役に立ったと感じたら、○○が軽減?

2020/03/06

 

医療者とは不思議なもので、例えば、普段はコルセットが必要なほどの腰痛に悩んでいるのに、なぜか仕事中は痛みを忘れて動いているといったことが珍しくないようです。

 

自分の痛みを忘れるほど没頭しているのでしょうか?と驚いていたのですが、どうやら単に「忘れている」というだけではなさそうです。

 

北京大学で行われた研究によると、人は他者のために何か良いことをすると、自分自身の身体的痛みが緩和されることが明らかになりました。

 

この実験では、孤児のために寄付した人は、寄付しなかった人よりも、電気ショックに対する脳の反応が小さかったことが報告されています。

 

さらには、この行動が「(他者の)助けになった」と感じている人ほど、痛みの反応は小さかったそうです。他者を思ってした行動が、なんと自分の苦痛を緩和するのですから、まさに「情けは人のためならず」ですね。

 

ところで、心が痛む時に、脳の中では、ケガなどによる身体痛と同じ部位で、よく似た反応を起こしていることが知られています。

 

つまり、脳は「心理的痛み」と「身体的痛み」をあまり区別していないのです。もしかすると、困った状況の人の役に立てたことで、自分の心の痛みが緩和され、それが身体痛の緩和につながっているのかもしれません。

 

うつ病の人の語彙に着目した研究では、「私」や「自分」など一人称の代名詞が多く使われ、「あなた」や「彼ら」など二人称・三人称の使用頻度が低いことが報告されています。

 

これは、意識が自分に集中していて、他者に向きづらい状態を示しています。

 

苦しい時は自分のことで精一杯で、他者に目を向けることは難しいものですが、できる範囲で周りに目を向け、困窮している人の幸福を願うことは、苦痛の軽減につながるかもしれません。

 

また同様に、身体の不調を感じる場合も、自分に意識が集中しすぎていないかを確認してみるのが良いですね。

 

 

 

坂田 真穂(さかた まほ)

日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。

相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。

 

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