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海外の紛争・災害などに対して、医師や看護師などの職員を派遣し、国境や宗教、人種を超えて人の命と健康、尊厳を守る活動に取り組んでいます。
2020/01/18
低所得国では、感染症で多くの方が亡くなっている
厚生労働省によると、2018年の日本人の平均寿命は、女性が87.32歳、男性が81.25歳で、いずれも過去最高だったそうです。死因の第1位は悪性新生物(腫瘍)で全死亡数の27.4%を占め、2位は心疾患、3位は老衰、4位は脳血管障害となっています。
死因について世界に目を向けてみると、欧米でも、やはり、がん、心疾患、脳血管障害が上位を占めています。一概には言えませんが、死因については日本と欧米では大きな違いはないようです。
しかし、アジア・アフリカの国々では状況は大きく異なります。WHOによると2016年の低所得国の死因の1位は肺炎で、2位は下痢症、3位は心疾患、4位はHIV/エイズと感染症が多く、死因としてがんは10位内にも入っていません。
日本でも肺炎で亡くなる方は非常に多いのですが、その多くは脳血管障害、心疾患等の基礎疾患に関連した高齢者の肺炎です。
一方、低所得国で死因として報告されている肺炎には、子供の肺炎が多く含まれています。現在の日本では、下痢症で亡くなることはあまりありませんが、こうした国では下痢症で亡くなる乳幼児が多くいます。
肺炎や下痢症で子供が亡くなるのは、低栄養による免疫力低下や適切な治療が受けられないことが原因です。
日本で感染症による死亡率が低下したのは、ワクチンの普及、栄養状態改善、上下水道の整備といった公衆衛生向上によって多くの感染症が予防されたことと、感染症にかかっても適切な治療を受けることができる優れた医療によるものです。
逆に、考えると低所得国での感染症による死亡には、“日本だったら防ぐことができた”はずのものが多く含まれています。
赤十字の感染症対応
低所得国では、未だに感染症は健康上の大きな問題です。
赤十字は世界で多くの感染症対策に貢献していますが、その代表的な事例としてコレラを挙げます。
日本でも昭和初期くらいまではコレラが大流行していました。和歌山県有田市では1977年にコレラの流行があり、患者さんや保菌者合わせて100名程度が報告されています。幸い、死亡者はでなかったのですが、当時を知る医師に聞くと社会的な大騒動だったそうです。
コレラは、コレラ菌によって重症の腸炎を起こす病気です。コレラ菌に汚染された水によって感染するので、上下水道が整った地域ではほとんど流行することはありませんが、清潔な水がなかなか手に入らない低所得国では今でもコレラの流行が続いています。
2017年にアフリカのソマリアで大きな流行がありました。
コレラの流行対策を考える上で、患者数や流行地域に関するデータと共に重要な指標となるのがコレラによる死亡率です。コレラは、適切に治療されると死亡率は1%以下になることが証明されていますが、ソマリアでは流行初期の死亡率は最大7%と報告されました。これは診療体制、現地の人々の栄養状態などに何か問題があることが示唆されます。
ソマリアは世界最貧国の1つで、折しも前年の2016年は干ばつがあったことで住民の健康状態への影響も懸念されていました。
赤十字は2017年5月に人道緊急支援の必要性が高いと判断してコレラ救援事業を開始し、患者の特に多かった地方都市(ブラオ)においてコレラ治療センターを立ち上げるとともに、周辺住民への啓発活動や、水質改善活動を行いました。私はこの治療センターの医師として同年7月、現地で活動しました。
コレラにかかった患者さんは、大量の下痢や嘔吐によって体から水分・電解質が出ていってしまい、脱水によって死亡します。
日本でもノロウイルスなど下痢を起こす感染症がありますが、コレラの場合には、他の病原体の下痢とは桁違いの下痢が吹き出すように出てきます。
下痢によって失われた水分補給のためには時に1日10リットルもの点滴が必要になります。しかし、強い症状が出るのは2日程度なので、この期間を点滴でしのぐことができれば完全に回復することができます。
赤十字のコレラ治療センターは非常にしっかりと運営されており、私の派遣期間中に入院した約600名のコレラ患者さんの全員が回復することができました。
このコレラ治療センターは、患者数が激減した8月にその主な役目を終了して、現地の医療機関へと引き継ぎが行われました。
緊急医療支援の課題
コレラ治療センターでの診療は、瀕死の患者さんが元気になって歩いて帰る姿を直接見ることができて大変やりがいを感じる活動です。
しかし、コレラが流行することになった背景が改善されなければ、今後も同じことの繰り返しになります。住民啓発を通じて消毒剤の使用を広める活動等も行いますが、根本的には清潔な水を供給できるシステムがなければ、また、数年もすれば流行が発生してしまうことでしょう。
感染症対応だけではなく緊急医療支援では、医療の限界を感じる場面が多くあります。
それは、緊急医療支援が永続的な支援でないことと、ほとんどの場合は支援が必要となる背景として貧困や紛争など医療以外の問題が根源にあるためです。
感染症には予防、あるいは治療可能なものが多くあります。
低所得国が、公衆衛生や医療システムを向上させるには時間がかかるものですし、経済や教育など医療以外の問題も複雑に関わっています。
このような制限の中で、赤十字の緊急医療支援を一時的なものではなく、本当に住民の健康に寄与する活動につながるものにしていくにはどうすればよいのか?
一組織だけでなく、国際社会全体で取り組まねばならない解決の難しい問題です。
日本赤十字社和歌山医療センター 国際医療救援部
「和歌山から世界へ」では、様々な国際活動をレポートしていきます。出発式のほかにも、現地での活動、帰国報告会、国際人道法や語学・熱帯医学などの研修風景などをお届けします。乞うご期待!