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少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。
2019/11/01
こんなジョークがあります。
色々な国の人を乗せた船が沈没しかけた時、船長が彼らをスムーズに海に飛び込ませようとして言いました。
イギリス人には「紳士はこういう時飛び込むものです」
ドイツ人には「規則では飛び込むことになっています」
イタリア人には「さっき女性が飛び込みましたよ」
アメリカ人には「飛び込んだらヒーローになれます」
そして、日本人には「もう、皆さん飛び込みましたよ」と。
確かに、私たちには皆と同じようにしておくと大丈夫だという先入観や、逆に、自分だけ違う行動を取ることへの不安があります。このような「とりあえず周りに合わせておこう」という心理を『同調バイアス』といいますが、この『同調バイアス』が命取りになることもあります。
例えば、東日本大震災でも、どこへ逃げれば良いか誰も分からないまま多くの人が「皆が逃げる方向」に逃げ、校庭に集まった結果、津波に遭ってしまいました。中には津波の情報を得た人が高台に逃げるよう伝えたものの、皆が校庭から動かない様子を見てそこに残ってしまい被害に遭ったという報告もあります。
このような『同調バイアス』とともに、「自分は大丈夫」「そんなことが起こるわけない」と最悪の事態を否定することで心の平穏を保とうとする『正常性バイアス』も同時に働くことから、災害や大事故の現場から逃げ遅れてしまう悲劇は後を絶ちません。これら2つのバイアスは「自分だけ逃げて何もなかったら恰好悪い」という意識によってさらに強化されます。
私たちは常に冷静に状況を見極め、自分自身の判断に従って行動することを忘れてはなりませんね。
※ バイアスとは、考え方や意見が他の影響を受けて偏ってしまうことをさします。
坂田 真穂(さかた まほ)
日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。
相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。