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少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。
2019/05/03
先日、面白い記事を見つけました。ある保育園が、子どものお迎えが遅れた保護者に500円程度の罰金を科すようにしたところ、遅刻が減るどころか、逆に2倍に増加したというのです。
一見不思議に思える結果でしたが、よく考えると分からなくもない気がしてきました。おそらく、善意で預かってもらっている間は「保育士に迷惑をかけてしまうこと」であった遅刻が、罰金という対価を支払って受ける「当然のサービス」へと変わったのでしょう。つまり、罰金という対価を返すことで、遅刻に申し訳なさを感じにくくなったのだと思われます。
文化人類学者のマルセル・モースは、名著『贈与論』で、人は与えられるだけでは負い目を感じると言っています。罰金やサービス料であっても、何らかの対価を支払う方が気楽なのです。
昔は隣近所で助け合った冠婚葬祭や引っ越し作業が、今ではすべて業者にお任せすることが増えたのも、借りを作る方が苦しいという心理から来ているのかもしれません。
しかし、相手の行為に対価を返すといった「交換」関係を選ぶことで失われるものもあります。「サービスと支払い」あるいは「お互い様」の関係は、相手への感謝や贖罪の気持ちを手放しやすいという側面があります。
また逆に、好意で親切を行った側も、お礼という対価が支払われたことで、良いことをした心地良さが消えたり、場合によっては、次からは好意に報酬を期待するようになるかもしれません(心理学では、報酬による動機の低減を「アンダーマイニング効果」といいます)。
ギブアンドテイクの「交換」関係は、お互いが対等であるためには大切ですが、与えられた好意にすぐにお返しするのではなく、しばらくは感謝の気持ちを心に留め、時がきたらお返しするというのも良いかもしれません。
(臨床心理士 坂田真穂)