災害救護と国際救援
災害救護について
災害救護に携わる赤十字看護師育成
日本赤十字社は、1890(明治23)年の発足当初から、赤十字の基本理念である人道の具現化として、救護看護婦統制を開始しました。発足時は戦時救護看護師の養成が目的であしたが、自然災害に備えることを含め、災害救護を看護基礎教育や卒後教育の中で実施しています。
赤十字救護看護師の育成-救護員としての赤十字看護師研修実施要綱より-
救護員としての赤十字看護師に期待される用件としては以下の3点があります。
- 看護専門職としての知識、技術、態度を有し、的確に判断し行動できる。
- 赤十字の理念や基本原則に則って、人間の尊厳と生命を守り、身体的、精神的な苦痛を軽減できる。
- 救護員としての赤十字看護師の立場と役割を理解して行動できる。
救護員としての赤十字看護師研修プログラム
入職後3年間で必要な研修を勤務時間内で受けることができます。(日本赤十字社救急法以外)
科目は<赤十字概論>と<災害看護論>と<日本赤十字社救急法>です。
内容は以下のとおりです。
科目 | 主な内容 | 受講時期 | |
---|---|---|---|
赤十字概論 | 赤十字概論Ⅰ | 赤十字の歩みと活動 | 入職1年目 |
赤十字概論Ⅱ | 赤十字の現況と課題 | 入職2年目 | |
赤十字概論Ⅲ | 赤十字の基本原則と国際人道法 | 入職2年目 | |
災害看護論 | 災害看護論Ⅰ | 災害看護概論 | 入職3年目 |
災害看護論Ⅱ | 国の災害対策と日本赤十字社の救護活動 | 入職3年目 | |
災害看護論Ⅲ | 最近の災害救護活動の現況と課題 | 入職3年目 | |
災害看護論Ⅳ | 災害救護演習 | 入職3年目 | |
日本赤十字社救急法 | 日本赤十字社救急法Ⅰ | 日本赤十字社救急法(一般普及講習)検定試験 | 入職3年目以内 (赤十字教育施設以外の方は、入職前の受講が望ましい) |
救護員としての赤十字看護師フォローアップ研修の概要
研修対象:実践者ラダーレベルⅡ・Ⅲの者
研修目的:赤十字救護員の役割を理解し、災害の状況に応じた看護活動が実践できる看護師を育成する
科目 | ねらい | 単元 | 時間 | 到達目標 | 学習方法 |
---|---|---|---|---|---|
災 害 看 護 論 14 時 間 |
災害看護における基礎的知識を確認する |
Ⅰ |
1.5 |
1.日本における災害発生状況を理解する |
1.講義 |
災害看護の実践力、応用力を身につける | Ⅱ 災害看護の基礎的知識と応用 | 2時間 | 災害サイクルに応じた救護活動を理解する | 1.講義 2.デモンストレーション 3.演習 |
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1.5 時間 |
災害サイクルに応じた感染制御について理解する | 1.講義 2.デモンストレーション 3.演習 |
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1.5 時間 |
災害の特性による救護活動を理解する。(災害の種類別の疾病構造と救護活動) | 1.講義 | |||
2時間 | 被災者特性に応じた看護活動を理解する。(高齢者、小児、母性、障がい者) | 1.講義 2.演習 |
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Ⅲ こころのケア |
1.5 時間 |
災害時の遺体の対応について理解する | 1.講義 2.演習 |
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擬似体験を通して災害看護の実際を理解する | Ⅳ 災害救護演習 |
4時間 | 国内の災害対応(近隣・広域災害)について理解し、実践力を高める | 1.実働訓練 |
赤十字社の国際活動
赤十字社は、世界191の国と地域に広がる赤十字社・赤新月社のネットワークを生かして国際的に活動する組織です。約150年前にアンリー・デュナン(スイス人:第一回ノーベル平和賞受賞者)が提唱した「人の命を尊重し、苦しみの中にいる者は、敵味方の区別なく救う」ことを目的として、地震やサイクロンなどの自然災害の被害を受けた国々、紛争下にある国々、保健衛生環境の改善が必要な国々で活動をしています。日本赤十字社はそのうちの一社であり、医師・薬剤師・保健師・助産師・看護師といった医療職や事務職員など多職種の職員を多くの国に派遣しています。
世界の人道問題に対する国民の理解と関心を高めることもまた、私たち赤十字の重要な役割の一つです。
当医療センター看護職の国際活動の実際
国際救援派遣看護師からのメッセージ
大谷香織(看護係長)
派遣国 :バングラデシュ人民共和国
派遣事業:バングラデシュ南部避難民救援事業
派遣期間:2017年10月20日~12月6日
活動内容:ERUでの勤務
国際救援活動を目指すようになった理由
20代後半に、「このままでいいのかな」と漠然と考えていたところ、「英語と看護師の資格を活かせる国際救援活動をやってみては?」と当時の上司だった看護師長に声をかけていただいたのがきっかけです。また、英語を教えてもらっていた黒人の先生から、昔の黒人差別などを聞く機会があり、「知らないということで、置き去りにしてはいけないことが世の中にはたくさんある」ことを実感し、自分ができることが国内、国外問わずあるのであれば、やってみたいと思いました。
実現するためにおこなってきたこと
英語力が低かったため、自己学習をコツコツ行いました、また、国際救援に関する研修に積極的に参加することで、全国の同じ目標を持つ仲間にも出会い、モチベーションをキープすることができたと思います。
国際救援を目指し始めたころは、子どもが二人とも保育園児であったので、近い将来の夢として、「国際救援活動を目指したい」と言うことを、家族や職場の上司・仲間に伝えてきました。
メッセージ
国際救援活動は「難しい」「大変」という印象を抱かれやすいですが、すべては興味を持つことが始まりです。目標を持ち続ければ必ず到達できます。目標を持つのに早い、遅いもありません。子どもがいた私も、周囲の協力の上、派遣を経験することができました。現地での経験は、医療機器がすべて揃った清潔な環境で医療活動をしている私には決して感じることができなかった貴重な経験ばかりです。
小笠原佑子(看護師)
派遣国 :ヨルダン・ハシミテ王国
派遣事業:中東地域紛争犠牲者支援事業(ヨルダン)
派遣期間:2017年12月6日~2018年12月20日
活動内容:保健衛生支援とその事業管理
国際救援活動を目指すようになった理由
自分の将来を考え始めた高校時代、海外の水や電気がない環境や紛争地といった、平和な日本とは全く違う状況で活動する看護師がいることを知り衝撃を受けました。そして、色々調べていくと赤十字の国際救援活動にたどり着き、その理念、活動に感銘をうけ、自分も看護師になって赤十字の国際活動に参加したいと思いました。
実現するためにおこなってきたこと
看護学生だった当時、国際看護学や災害看護学は必須科目ではなかったので、それらの講義がある赤十字の看護大学に進学して基礎を学びました。卒後もより良い環境を選択するために、国際医療救援部がある当医療センターに就職しました。看護師として働きながら、国際医療救援の研修会やオンライン講義などで知識を深め、派遣経験のある先輩から話を聞いたり、共に目指す仲間と支えあいながらモチベーション維持に努めました。集中語学研修にも参加させてもらい、不得意だった英語を必死で学び習得しました。国際救援要員に登録後は、国内外で行われるより専門性のある研修に参加しています。
メッセージ
当医療センターは、国際救援活動をしたい看護師をサポートしてくれる体制、共に志す仲間、経験豊富な先輩、最新の情報や派遣機会などが整っている環境だと思います。看護師として培った経験や技術を、是非赤十字の国際活動の現場で活かしてみませんか?世界には、それを必要としている人々がたくさんいます。
国際活動を行うための研修・登録
赤十字の国際活動を行うことを目指す看護職は、赤十字施設のキャリア開発ラダ—の実践者ラダ—と同時進行でも自己研修を進められるようになっています。実践者ラダ—Ⅲを認められた後に、国際赤十字社・日本赤十字社で行っている国際活動に必要な専門のコースを段階的に受け、派遣が可能になった段階で日本赤十字社に登録されます。当医療センターの国際医療救援部の研修もあります。