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少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。
2021/01/01
以前、留学や仕事のために数年間アメリカに住んでいたのですが、その頃に慣れることが難しかった習慣の1つに、「人とすれ違うときに相手の目を見て、ほほ笑む」というものがありました。
さすがに人ゴミの中ではしないようですが、人通りの少ないところでは、見知らぬ者同士でも微笑を交わし合います。
比較行動学者のアイベスフェルトは、文化も宗教も異なる人々の挨拶行動を観察し、ほほ笑むという共通の行動があることを発見しました。
そして、この微笑するという行為が、こちらに敵意がないことを示し、相手を安心させるという重要な意味をもっていること、また、場の緊張を解き、互いの攻撃性を弱めることを指摘しました。
確かに、アメリカでは親が子に「ご挨拶しなさい」と教える代わりに「スマイルしなさい」と言うのをよく聞きました。
けれども、私たち日本人は、親からほほ笑むように教えられることなどありません。代わりに会釈をしますが、会釈も本来は自分の首を無防備に相手に晒し、敵意の無さを示す挨拶だといわれているものの、笑顔に比べると少々わかりづらい意思表示だと言えます。
アイベスフェルトが発見したように、笑顔は本能的ともいえる人類共通のコミュニケーションですが、良い関係を生み出すはずの笑顔を無意識裡に抑え込んでしまうのは残念なことです。
また、知っている人同士で交わし合う笑顔も、「あなたのことを大事に思っていますよ」というメッセージになり、相手も「ミラー効果」により笑顔を返すことから、尊重し合える関係に繋がります。
私が大好きなマリー・エッツの『また もりへ』(福音館書店、1969年初刊)という絵本でも、他の動物にはいろんな能力があるけれど、人間だけが笑顔という素敵な表情をもっていることを教えてくれます。
時には、無意識にかけられた理性のフィルターを外して、にっこりと笑ってみませんか。
坂田 真穂(さかた まほ)
日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。
相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『いのちを巡る臨床―生と死のあわいにいきる臨床の叡智』(創元社, 2018)など。