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外科・消化管外科・肝胆膵外科


内視鏡手術について

消化管外科の世界に「革命」をもたらしたのが「内視鏡手術」です。この手術はまず、臍部に小さな穴を開け、そこから二酸化炭素ガスを注入して腹壁を膨らますことにより腹腔内に空間を作ります。内視鏡スコープをへその穴(ポート)から挿入し、さらに数カ所の小さな穴から特殊な手術器具を挿入して、モニターを見ながら従来の開腹(開胸)手術と同様の手術を行います(図1)。

図1 内視鏡手術風景


最新のハイビジョン3D内視鏡で近接視すると肉眼で見るよりも精細な画像を得ることが可能となり、さらに超音波凝固切開装置といった凝固止血を行いながら組織を切開できる手術機器の開発も内視鏡手術の発展に大きく貢献しています。内視鏡手術では従来の開腹(開胸)手術に比べて創が小さく(図2)、患者さんの身体に対する負担も軽減します。

図2 手術創 

腹腔鏡下胃切除術(術後 5 日目)

開腹胃切除術


さらに手術機器の開発と技術の進歩により非常に繊細な手術ができるようになりました。
徹底したリンパ節郭清を行いながらもほとんど出血させることなく手術が可能となっています。

内視鏡手術は従来の手術とは異なる技術が必要となるため、日本内視鏡外科学会のビデオ審査に合格した外科医には技術認定医という資格が与えられています。当科では2020年10月現在、5名がこの資格を取得しています。

この内視鏡手術をいち早く導入して多くの経験を積むことにより、当センターではほとんどすべての進行胃がん・食道がん・大腸がんに対して内視鏡手術を行うことが可能となっています。胃がんにおいては幽門側胃切除術だけでなく、難度が高いと言われる胃全摘術や噴門側胃切除術、さらに他臓器合併切除などの術式にも対応しています。食道がんは術前に抗癌剤や放射線治療を行うことが多いのですが、このような症例でも原則は胸腔鏡下手術で行っています。

胃がん、食道がん、大腸がんの内視鏡手術での治療成績を図3に示します。胃がん、食道がんに関しては山下部長個人の治療成績、大腸がんに関しては当科での治療成績となりますが、それぞれ従来の開腹(開胸)手術と比べても優れた治療成績を示しています。


ロボット手術

手術支援ロボットとは

腹腔鏡手術は開腹手術と比べるとさまざまな長所がありますが、短所もあります。腹腔鏡手術で使われる手術器具は長い棒状のものであり、言わばお箸を使って手術をするようなものです。当然、開腹して通常の手術器具を使うほうがはるかに簡単です。難度の高い手術を行うにはより高度な技術が必要となってきます。このような背景のもと、登場したのが手術支援ロボット ダヴィンチサージカルシステムです(図1)。

図1 ダヴィンチサージカルシステム(左よりサージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカート)

ロボット支援手術は腹腔鏡手術と基本は同じで、お腹に小さな孔を開けてそこからカメラや手術器具がついたロボットアームを挿入しますが、このアームの先端には前後左右に540度動く小さな関節がついています(図2)。

図2 ロボットアーム


アームにつける手術器具(インストゥルメント)には、用途に応じて、電気メス、ハサミ、縫合用のニードルドライバー、自動縫合器など50種類以上のタイプが用意されています。術者は「サージョンコンソール」とよばれる操縦席に座り、3D画像を見ながら手元のコントローラーでロボットアームを操縦します(図3)。

図3 サージョンコンソールとコントローラー


ロボット支援手術の基本手技は腹腔鏡手術とほぼ同じですので、腹腔鏡手術の経験をそのまま生かすことができます。ダヴィンチのその他の機能としては、「モーションスケーリング機能」「手ブレ防止機能」などがあります。「モーションスケーリング機能」とは人間の手の動きを1.5分の1、2分の1、3分の1のスケールに縮小してロボットアームに伝える機能です。例えば3分の1に設定した場合、執刀医がコントローラーを6cm動かした時、アームの先端は2cmだけ動きます。これらの優れた機能により従来の腹腔鏡手術に比べてより緻密な作業を正確かつ安全に行なうことが可能です。

胃がんに対するロボット支援手術の現状

2012年、泌尿器科領域の前立腺全摘術に対してロボット支援手術が初めて保険適用となりました。前立腺手術にダヴィンチを用いると従来の内視鏡手術に比べて繊細な操作を簡単に行えるようになったため、現在ではロボット支援手術が標準術式となり広く普及しています。一方、胃がん手術は胃という大きな管腔臓器を対象とするため取り回しが難しく、操作範囲も広くなってロボットアーム同士の干渉が問題となります。また、リンパ節の掃除(リンパ節郭清)や胃切除後の再建など複雑な作業が多く、前立腺手術のようにダヴィンチが手術を容易にするわけではありません。胃がんにおけるロボット支援手術は手術を容易にするというより、腹腔鏡手術を超える精度の高い手術を可能にする手段であるというのが個人的な見解です。2014年から先進医療として行われた臨床試験にて術後合併症を有意に減少させることが証明され、2018年の4月にようやく保険適用となりました。
胃がんに対するロボット支援手術が保険適用となった現在、消化器外科医なら誰でもすぐにロボット手術ができるというわけではありません。消化器外科領域におけるロボット支援手術を安全に導入・普及させるため、日本内視鏡外科学会がロボット手術を行える外科医の条件を指針として公表しています(表1)。

表1 日本内視鏡外科学会によるロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針(抜粋)

1.ダヴィンチ手術トレーニングコースを受講し、certificate(ダヴィンチ手術認定医)を取得していること。
2.消化器外科専門医であること。
3.日本内視鏡外科学会が定める技術認定医であること。
4.20例以上の腹腔鏡下胃切除術の執刀経験を有すること。

この条件をクリアできた医師が、ロボット支援手術を行うことができます。受講することが必須となっているダヴィンチ手術トレーニングコースの内容は、1.オンライントレーニング、2.オンサイトトレーニング、3.オフサイトトレーニング、4.症例見学からなっており、症例見学は全国に8ヵ所ある胃がんのメンターサイト(症例見学指定施設)のいずれかで行うとダヴィンチ手術認定証が取得できます(図4)。

図4 胃がんロボット支援手術のメンターサイト

胃がんロボット支援手術における当センターの役割

当センターは2017年、和歌山県で初めて胃がんに対するロボット支援手術を導入しました。導入当初は保険適用がなかったため、自由診療にてこれを行いました。その結果、現在では当センターの技術力とチーム力が認められ、前述の胃がんロボット支援手術のメンターサイトに認定されています(図4,5)。

図5 メンター証書

また、山下 好人第一消化管外科部長 は、日本内視鏡学会が勧めるプロクター(指導医)として他の施設でロボット支援手術の指導も行っています(詳しくは日本内視鏡外科学会ホームページhttp://www.jses.or.jp/ をご覧ください)。このように当センターは胃がんに対するロボット支援手術において全国的な指導的立場としての役割を担っています。

直腸がん、食道がんに対するロボット支援手術も積極的に行っています

2018年の4月に直腸がん、食道がんに対してもロボット支援手術が保険適応用となっています。当医療センターでは 伊東 大輔第二消化管外科部長 と 辰林 太一副部長 がロボット(da Vinci)手術認定医を取得しており、直腸がんに対するロボット支援手術は 伊東 大輔部長 、胃がん、食道がんに対するロット支援手術は 山下 好人第一消化管外科部長 と 辰林 太一副部長 が担当しています。

ロボット支援手術の実際については
山下(個人)のWebサイト


胃がんとは

胃の機能

食べ物が胃に入ってくると胃の筋肉が活発に動き、食べたものと胃液(胃から分泌される消化液)が混ぜ合わされ、どろどろのかゆ状になります。胃の動きにあわせて胃の出口(幽門輪)が開閉し、胃内容を少しずつ十二指腸、小腸へと送っています。

胃の他のはたらきとしては、血液成分の産生に必要である鉄やビタミンB12の吸収にも関与しています。また、胃酸の強い酸度は消化だけでなく口から入った雑菌の殺菌にも役立っています。

 

<胃壁の構造>

 

胃の壁は内腔から順に,粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜により構成されています。



診断と治療

がんが見つかった場合、まずすべきことは、そのがんがどのようなタイミングで見つかったのかを調べることです。つまり、進行度(ステージ)を検査し診断する必要があります。さらに、それ以外にも全身状態や既往歴・合併症を検査し把握する必要があります。

以上の結果をふまえ、胃がん治療ガイドラインに従って、患者さんと相談の上で治療方針を決定します。

胃がん治療ガイドライン

胃がんの進行の程度に応じて、標準的な治療としてふさわしいであろう治療を示す目的で作成されました。ただし、その治療が個々の患者さんにとって最良の治療と常に一致するとは限りませんので、担当医とよく相談する必要があります。(胃がん学会編)

必要な検査

胃がんの診断には、下記のような検査法を組み合わせて行う必要があります。

また、予定する治療を安全に行うために、心電図、呼吸機能検査、血液検査、尿検査などを行い、手術や麻酔のリスクを評価します。

1)上部消化管造影検査(レントゲン検査)

バリウムを飲んでレントゲンで撮影する検査です。胃がんの発見だけでなく、 がんの存在する位置や狭窄の程度、がんのひろがりや浸潤の程度などを判断するのに役立つ検査です。施行しないこともあります。

2)内視鏡検査

いわゆる胃カメラにて胃の内部を観察し、腫瘍のかたちや色調の変化ならびに、がんのひろがりや入り口または出口までの距離を評価します。内視鏡検査では、腫瘍の一部を小さくつまみとって、顕微鏡を用いてチェックします(生検組織診断)。内科でこの検査を受けられていても、術式の決定のために外科でもう一度検査させていただくことがあります。

 

また、腹腔鏡で手術を行う場合、比較的早期のがんでは胃の外側からがんが見えないため、あらかじめ胃カメラでがんの近くの胃壁に墨汁(0.1ml)を注射して(点墨)、これを目印に胃を切除します。脳血管障害や心疾患などで抗凝固療法を受けられている方は、検査を受けるにあたってその内服薬の服用を一時的に中止していただくことがあります。



3)CT撮影(コンピューター断層撮影)

身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です。がんの拡がりぐあい、特にリンパ節転移や肝臓などの転移を調べるために必要な検査です。がんと周囲臓器との関係を調べるためにも重要です。ヨード造影剤を用いた造影CTをとる必要がありますが、まれにアレルギーを起こす方がおられますので、造影検査についての説明を聞いてください。

4)超音波内視鏡検査

胃カメラの先端に超音波の装置がついた特殊な内視鏡を用いてがんの病変の深さ(深達度)や拡がりを調べます。

がんが比較的浅い時(早期がん)に行います。



5)PET-CT検査(陽電子放射断層撮影法)

がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むという性質を利用し、微量の放射線物質をつけたブドウ糖に近い成分(FDG)を体内に注射します。がんの本体や転移病巣には、このFDGが多く集まるため、撮影するとがんのある部位が光るように見えます。症例により必要があれば紹介も行います。

6)審査腹腔鏡

「腹膜播種性転移」は上記の検査では診断しにくいにもかかわらず、もし、これがあればステージ4となり根治切除は不可能となります。かなり進行したがんで「腹膜播種性転移」の可能性がある場合、全身麻酔下にお腹に小さな穴をあけ、腹腔鏡というカメラで実際に腹腔内をのぞいて調べることがあります。この検査を審査腹腔鏡と言います。
生検(疑わしい病変を少量切除して顕微鏡で調べる)や腹腔洗浄細胞診(腹腔内に生理食塩水を入れてかき混ぜたのち回収し、顕微鏡で調べる)といった病理学的検査も同時に行います。

進行度

がんは粘膜から発生し、進行するに従って壁に深く入り込んだり、転移をきたすようになります。

がんの進み具合の表しかたを進行度(ステージ)といいます。
進行度は、がんが胃の壁に入り込んだ深さ(T)、リンパ節転移の場所と個数(N)、肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜にまで転移しているか(M)の組み合わせで決められています。ステージ1Aは最も早期で、ステージ4はがんが最も進行した状態です。



深達度

転移

進行度分類(Stage)

 
N0
リンパ節転移なし
N1
転移リンパ節1~2個
N2
転移リンパ節3~6個
N3/b
転移リンパ節7個以上/16個以上
M1
肝、肺、腹膜などに転移
T1a(M)粘膜まで
T1b(SM)粘膜下層まで
1A 1B 2A 2B/3B 4
T2(MP)筋層まで 1B 2A 2B 3A/3B
T3(SS)漿膜下層まで 2A 2B 3A 3B/3C
T4a(SE)漿膜をこえる 2B 3A 3A 3B/3C
T4b(SI)隣接臓器に浸潤 3A 3B 3B 3C
 

進行度別治療

胃がん治療ガイドラインによる胃がんの進行度に対応する治療法の選択(適応)は以下の表になります。

ただし、これはあくまで目安であり、実際は病気の状態や体力をよく調べて、十分に説明させていただいたうえで、それぞれの患者さんに一番適した治療法を受けていただきます。ご本人が望まない治療を無理に受けることはありません。

  N0 N1
転移リンパ節
1~2個
N2
転移リンパ節
3~6個
N3a/b
転移リンパ節
7個以上~16個以上
T1a(M)
1A
内視鏡的切除
(分化型、2cm以下、潰瘍なし)
 
胃切除D1
(上記以外)
1B
胃切除D2
2A
胃切除D2
2B/3B
胃切除D2
T1b(SM)
1A
胃切除D1,D1+
T2(MP)
1B
胃切除D2
2A
胃切除D2
+補助化学療法
2B
胃切除D2
+補助化学療法
3A/3B
胃切除D2
+補助化学療法
T3(SS)
2A
胃切除D2
+補助化学療法
2B
胃切除D2
+補助化学療法
3A
胃切除D2
+補助化学療法
3B/3C
胃切除D2
+補助化学療法
T4a(SE)
2B
胃切除D2
+補助化学療法
3A
胃切除D2
+補助化学療法
3A
胃切除D2
+補助化学療法
3B/3C
胃切除D2
+補助化学療法
T4b(SI)
3A
胃切除D2
+合併切除
+補助化学療法
3B
胃切除D2
+合併切除
+補助化学療法
3B
胃切除D2
+合併切除
+補助化学療法
3C
胃切除D2
+合併切除
+補助化学療法
肝・肺・腹膜などに転移しているがん
M1,P1
4
化学療法
緩和手術
緩和医療

D1,D1+,D2:がんの位置や深達度によって郭清(リンパ節を切除すること)すべき範囲が変わります。
D1→D1+→D2にしたがって郭清範囲は拡がります。


胃がんの治療法

<内視鏡治療 >

内視鏡治療は、内視鏡で胃の内側からがんを含む粘膜を切り取る方法です。
がんが胃の粘膜までで、大きさが2㎝以下で、顕微鏡で見た組織型が分化型といわれるものであればリンパ節転移はほとんどないことがわかっており、内視鏡治療の絶対適応となります。また、最近では、2cmを超えるがんでもリンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる粘膜がんに対しては、この治療が行われるようになっています。

 

<外科療法 >

手術は身体にメスをいれてがんを切りとってしまう方法で、通常、胃の切除と同時にリンパ節を含む胃周囲の組織も切除します(リンパ節郭清)。胃を切除した後には食物の通る新しい経路を再建します。

胃を切除する範囲によって幽門側胃切除術・噴門側胃切除術・胃全摘術などにわけられます。また、お腹の切りかたから、従来からの大きく切って手で行う方法(開腹術)と小さな孔からカメラを入れて行う方法(腹腔鏡下手術・ロボット支援手術)にわけられます。

 

 


腹腔鏡下胃切除術(内視鏡手術)

この手術は、数ヵ所の小さな創から腹腔鏡というカメラと特殊な手術器具を挿入し、モニターを見ながら胃がんを切除する方法です。 
腹腔鏡下胃切除術は、2002年から保険診療の対象として認められており、胃がん治療ガイドラインでは、早期がんに対しては推奨される治療法となっています。当センターではこの腹腔鏡下胃切除術をいち早く導入し、日本内視鏡外科学会による技術認定医の関与の下に、その豊富な経験と先進の技術により現在では進行胃がんを含むほとんどすべての胃がんに対して腹腔鏡手術を行っており、その治療成績も従来の開腹手術に劣らない結果が得られています。ただし、全国的にみるとこのような施設はまだまだ少なく、ガイドラインで推奨されているわけではありません。

腹腔鏡下手術の選択に際しては上記のことを十分に説明したうえで、同意をいただくようにしており、さまざまな理由で腹腔鏡下手術では危険が生じる可能性があると判断した場合は、その手術中に開腹術に切り替えることもあります。

腹腔鏡下手術の長所 腹腔鏡下手術の短所
創が小さい
痛みが少ない
術後の回復が早い
出血が少ない
術後腸閉塞の合併症が少ない
腹腔鏡手術手技の習得が必要
手術時間が長くなる
開腹移行する可能性がある
(非常にまれ)

  • 手術創のちがい

  • 腹腔鏡下手術


ロボット支援下腹腔鏡下胃切除術

ダヴィンチサージカルシステム

  • 図1


ロボット支援下腹腔鏡下胃切除術は2018年4月から保険診療の対象となっています。当センターは胃がんに対するダヴィンチ手術のメンターサイト(見学指定施設)として進行胃がんに対しても積極的にこれを行っています。
この手術は、腹腔鏡手術と基本は同じで、お腹に小さな孔を開けてそこからカメラや手術器具がついたロボットアームを挿入します。腹腔鏡手術で使われる手術器具は長い棒状のものですが、ロボットアームの先端には前後左右に540度動く小さな関節がついています(図1)。
術者は「サージョンコンソール」とよばれる操縦席に座り、3D画像を見ながら手元のコントローラーでロボットアームを操縦します(図2,3)。
ロボットアームにつける手術器具(インストゥルメント)には、把持鉗子、電気メス、ハサミ、縫合用持針器、ベッセルシーリングシステム、自動縫合器など様々なタイプが用意されており、用途に応じて使い分けています。

  • 図2

  • 図3


ダヴィンチのその他の機能としては、「モーションスケーリング機能」「手ブレ防止機能」などがあります。「モーションスケーリング機能」とは人間の手の動きを1.5分の1、2分の1、3分の1のスケールに縮小してロボットアームに伝える機能です。例えば3分の1に設定した場合、執刀医がコントローラーを6cm動かした時、アームの先端は2cmだけ動きます。これらの優れた機能により従来の腹腔鏡手術に比べてより緻密な作業を正確かつ安全に行なうことが可能です。

幽門側胃切除術

胃の幽門側2/3から4/5を切除し、さらに周囲のリンパ節を郭清する手術で、胃がんの多く(約7割)は胃のまん中から幽門部より(胃の幽門側2/3)に発生しますので最も多く行われる術式です。

食べ物の通り道を再建する方法としては残った胃の断端と十二指腸の断端を寄せて直接つなぐ胃十二指腸吻合法(ビルロート1法)や十二指腸の断端を縫合閉鎖して胃の断端と小腸をつなぐビルロート2法(+ブラウン吻合)ルーワイ吻合法などがあります。最近では自動吻合器・縫合器という器械を用いて吻合しています。


自動縫合器 幅3mmのチタン合金製ステープルが自動的に6列で打針されるとともにその真ん中をカッターで切離されます。


胃全摘術

胃の上部に及ぶ大きな進行がんや、早期がんでも胃全体に多発していたり、非常に広い範囲におよぶ場合には胃全摘術が適応となります。進行がんでは広い範囲のリンパ節を郭清するために、胃の左側に隣接する脾臓を合併切除することもあります(後述)。がんが食道に浸潤している場合は、食道の下側も切除する必要があります。当科でよく用いる再建法は小腸を一か所切離し、その下方の小腸を持ち上げて食道断端とつなぎ、さらにそこから約40cm下方でもう一方の小腸断端とつなぐルーワイ吻合です。

他臓器合併切除について
以下のような場合には胃周囲の他臓器(全部またはその一部)を合併切除することがあります。

がんが直接、他の臓器に浸潤している場合・・・膵臓・肝臓・大腸など
リンパ節郭清のために摘出が必要・・・脾臓・膵臓など
胆のう炎や胆石がある場合 ・・・胆のう



試験開腹術およびバイパス術・ステント術

胃がんが、高度の肝転移や腹膜播種性転移をともなっていたり、他臓器への浸潤が強く切除困難であった場合には、胃を切除しないでそのまま手術を終えたり、食べ物ががんの部位を通らないように新しい通り道を作る手術(バイパス術)のみを行うことがあります。また、全身状態によっては、内視鏡でステント(金網性の筒)をいれて食事が通るようにすることがあります。
これは胃切除によって体力を低下させるよりは、早く食事ができるようになって抗がん剤などの他の治療を早く始めるほうが患者さんにとって良いからです。
(ただし、がんからの出血が続いているような場合は、高度な転移があっても胃を切除することがあります。)


噴門側胃切除術

胃の入り口側(噴門側)1/3にできた胃がんに対し用いられる術式です。できるだけ胃を残して胃の貯留能を残そうとする術式ですが、食道と残った胃の断端を直接つなぐと、食べたものや胃液が食道に逆流して逆流性食道炎が起こり、強い胸やけが起こります。当センターでは、残った胃と食道の吻合方法に工夫を加えることで逆流を防止する新たな再建法(SOFY法)を開発しました。
このSOFY法により、逆流性食道炎は減少し、食事摂取も良好で、患者さんの術後の生活の質はかなり良くなりました。

SOFY法による食道残胃吻合


食道の右側壁と残胃を縫合し、食道を胃前面に貼り付けることで逆流防止機構が働きます。

食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下噴門側胃切除+下部食道切除術

食道と胃の境界部に発生したがんは胃がんの場合もあれば食道がんの場合もあります。いずれにしても治療法は大きく変わらないので専門的には食道胃接合部がんと呼ばれています。以前は胃全摘されることも多かったのですが、最近では噴門側胃切除+下部食道切除を行い、できるだけ胃を残す術式となっています。残った食道は胸の中(胸腔内)に入ってしまうため、胸の中で食道と残胃を吻合しなければならず手術は難しくなります。このような場合でも腹腔鏡手術やロボット手術で腹部から横隔膜を超えて胸の中で手術操作を行い(経食道裂孔的アプローチといいます)、SOFY法による再建を行うことが可能です。 


手術創とドレーン

おなかの切開創は、抜糸の必要のない埋没縫合としています。また、おなかの中にたまった血液や浸出液を体の外に出す目的で直径5mm程度のドレーンという柔らかいチューブを留置することがあります(留置しないことも多いです)。このドレーンは手術後に食事を始めて問題が無ければ固定の糸を切って簡単に抜けますので、それまでは引っ張ったりして抜けないように注意してください。



術後経過とクリニカルパス

当センターでは、胃がん手術をうけられる方にクリニカルパスとよばれる、病気を治すうえで必要な治療・検査やケアなどを日付別に示した診療スケジュール表を用いて治療していきます。
基本的には、術後約1週間程度の入院期間となります。クリニカルパスの日程に準じて、術後1日目から歩行を開始し、水分摂取が可能です。術後2日目からしっかりと歩行していただくことで、腸が動くようになり術後2~3日でガスが出ます。術後3日目で3分粥食が始まります(胃全摘の場合は4日目)。経過によっては、食事開始が遅れることもあります。
食事が食べられるようになるまでは、点滴により水分と栄養を補います。胃を切除した後の食事摂取は元通りというわけではなく、しばらくは1回に食べる量を減らしてこまめに間食をしていただく必要があります。これに関しては、専門の管理栄養士による栄養指導を術後に受けていただきます。
クリニカルパスは、あくまで標準的なスケジュールを示したものなので、各個人の体質や病状、治療内容(術式の違いや合併症の発生)によっては、スケジュールどおりにいかないこともあります。ただし、スケジュールからはずれることがあったとしても心配する必要はありませんし、その場合は改めて以降の治療の見込みについて説明させていただきます。

合併症について

胃がんに限らずあらゆる手術の術後に、望まない不都合な状況が発生することがあります。これを合併症といいます。手術後の合併症には、手術操作とは関連なく発生する肺炎、心臓病、肝機能障害などの一般的(全身的)合併症と手術関連して発生する外科的合併症(出血、縫合不全など)があります。合併症は、医療過誤や過失によるものではなく、同じ医師が同じように注意深く手術をしても一定の割合で発生します。また、患者さんの年齢、全身状態、併存する持病(糖尿病、高血圧、心臓疾患、呼吸器疾患、肝臓疾患など)の影響を大きく受けます。これらの合併症により不幸にして命を落とされる方(手術死亡率)も1%ほどと報告されています。


出血
胃がん手術の際の術中出血量は、がんの部位や進行度、患者さんの状態によって変わりますが、出血量が多い場合には輸血が必要となります。日本赤十字社の血液センターから安全が確認された血液を必要最小限度のみ輸血させていただきますが、この輸血も100%安全なものとは言えません(輸血の説明書を参照)。また、術中には止血していた部位から、術後に出血が起こって再手術(止血術)が必要となることがあります(再手術を要する頻度は0.1%以下)。
また、稀につなぎ合わせた腸の縫合部から腸管内に出血することがあります。出血が続き貧血が進む場合は、内視鏡での止血が必要になることもあります。それでも止血しきれない場合には再手術で止血する場合もあります。
感染
胃や腸の中には無数の細菌がおり、これらの菌によりお腹のキズ(創)やおなかの中に膿が溜まることがあります(創感染)。これを予防するため、手術終了直前におなかの中を5~10リットルの滅菌水で洗浄し、手術直前から細菌を殺す薬(抗生物質)を投与していますが、手術後にこれらの細菌がはびこるのを完全に防ぐことはできません。この場合、手術の創を開いたり、おなかの中に管を入れたりして膿を出すと治ります。これは手術の5~10%に合併します。
縫合不全
食道断端や胃断端と十二指腸・小腸などを繋ぎ合わせる(吻合する)際には多くの場合、特殊な器械(自動縫合器)を用いて行いますが、この吻合部から内容液(腸液など)が少し漏れることがあります(頻度は食道空腸吻合で数%程度、他の吻合では1%程度)。
術中に留置したドレーン(排水管)からその内容物や膿がうまく排出されるようであれば、絶飲食で縫合不全部が自然に治るのを待ちます。しかしながら、ドレーンがうまく効いていない場合は、ドレーンを新しく入れる処置をしたり、再手術が必要となる可能性もあります。起こってしまうと入院期間が1ヵ月を超えることもあります。
膵炎・膵液瘻(ろう)
膵臓周囲のリンパ節を郭清することで(特に進行がん)多少なりとも膵臓は傷つきます。これが原因で膵炎を起こしたり、膵液(消化液)が腹腔内に漏れ、膿がたまること(膵液瘻による腹腔内膿瘍)があります。膵液瘻が起こると、膿の排泄がおさまるまでドレーンを抜くことができません。場合によっては、再手術で膿を洗い流しドレーンを新たに追加する必要があります。膵液がおなかの中の血管の壁を溶かすと突然、出血を来たし重篤な状態に陥る可能性もあります。一旦、膵液瘻が起きると入院期間が1ヵ月を超えることもあります。
通過障害、吻合部狭窄
吻合部のむくみや腸の動きのぐあいで食べたものがうまく腸に流れて行かないことがまれにあります。多くは術後一過性に生じ、ほとんどは自然に軽快しますが、まれに内視鏡による拡張術などの治療を要することがあります
癒着による腸閉塞
おなかの手術をすると、程度の違いはありますが腹腔内の臓器同士が癒着します。この癒着により、腸がつまった状態(腸閉塞)が起きることがあります。
排便・排ガスがみられず、嘔吐や腹痛などの症状がみられます。多くの場合、絶食・点滴で治癒しますが、ひどい場合には手術が必要となります。
腹腔鏡下手術では開腹手術と比べて癒着が少ないので腸閉塞も起こりにくいです。
肺塞栓
長時間の手術や腹腔鏡による手術は脚の静脈に血のかたまり(血栓)が生じやすく、この血栓が肺動脈に流れて閉塞する疾患です。(頻度は1%以下)。これにより呼吸困難などの症状を呈し、非常に稀ですが死亡することもあります。予防策として、脚の間欠的空気圧迫法(マッサージ)を行っています。
アレルギー
手術の際に使用する色々な薬剤が原因でアレルギーを起こすことがあります。ひどい場合にはショック状態を呈することもあり、やむなく手術を中止あるいは延期することがあります(頻度は1%以下)。
肺炎・無気肺
全身麻酔の影響で術後は痰が増えますが、痛みの影響で痰がうまく出せなかったり、大きな呼吸ができないでいると、無気肺(部分的に肺が膨らまない状態)が起こり肺炎になります。肺炎が悪化すれば、呼吸不全となり人工呼吸器の装着を要することもあります。肺炎を予防するために禁煙を厳守してください。
術後せん妄
手術のストレスや絶食などの様々な要因により手術の後いったん平静になった患者さんが1~3日たってから、急激に錯乱、幻覚、妄想状態などの精神障害をきたし、大声を出して暴れたり、点滴やドレーンなどを引き抜いてしまいそうになることがあります。
その治療には鎮静剤、睡眠剤や鎮痛剤を使用したり、ご家族による面会をお願いすることがあります。約1週間程度で自然におさまることが多いのですが、急性期にはやむを得ず身体拘束をさせていただく場合があります。
その他
上記以外にも腸炎や抗生物質などによる肝機能障害、術中の体位固定による上肢または下肢の神経障害、さらには成人病のひとつである脳梗塞、心筋梗塞など、ここでは十分な説明ができていない色々な合併症が発生する可能性もあります。

万一、このような合併症が生じた場合は、さまざまな追加治療が必要となり,入院期間の延長につながることもあります。

それらについては、詳しく説明させていただいたうえで、できるだけ早く回復されるように最大限の努力いたしますので、追加治療へのご理解、ご協力をお願いします。


術後の生活

胃を切除した後の食事摂取には個人差が大きいのですが、基本的には半年から1年程度で、かなり手術前に近い状態に回復します。
しかしながら、それまでの間、しっかりと栄養を取らないと体重が減ってしまいます。術後の食事療法に関しては術後に管理栄養士による栄養指導を受けていただきます。
また、術後早期は筋肉量も減少することでさらに体重が減ることが知られています。
従って、術後に最も大切なことは、
・ 1回の食事量を減らして、間食も含めた食事回数を増やす。
・ よくかんでゆっくり食べる。
・ 安静にせず、しっかりと運動する。
術後2~3ヵ月のあいだは栄養剤でカロリーを補給していただくことをお勧めしています。


手術後の症状と異常について

体重減少
多くの方で術後1年間で5~15%の体重減少がみられます。
下痢
腸への食べ物の流れ込みがはやくなったり、お腹の神経がうまく働かなくなったりして消化吸収のバランスをくずし、時に下痢をきたすことがあります。胃の手術後10%程度にみられますが、ほとんど1年以内におさまります。
早期ダンピング症候群
食後30分以内におこり腹部症状(腹痛・腹鳴・腹部膨満・吐き気・おう吐など)と全身症状(冷や汗・動悸・めまい・眠気・脱力感・頭痛・顔が赤くなるなど)がみられます。食べ物が急激に小腸に流れ込むことが原因でおこります。症状がおきたら横になるとよく、また、食事摂取法(上記の注意点)によりある程度は予防が可能です。腸の動きを弱くする薬の服用も有効です。
晩期ダンピング症候群
食後2~3時間に血糖値が低下するために生じます。脱力感・めまい・動悸・息切れ・冷や汗・手のふるえなどの低血糖症状がみられます。症状が出現したら、早めに糖分(甘い飴やジュースなど)をとることで予防できます。
内ヘルニア
小腸を胃や食道と吻合する再建法では、持ち上げた小腸の背側に別の小腸が入り込んでねじれが生じることがあります。出現時期はまちまちで多くの場合、突然の腹痛が起こります。症状がなく定期検査のCTで発見されることもあります。自然にねじれが戻ることはまれなので、多くの場合は腹腔鏡下にねじれを直すが必要となります。
逆流性食道炎・残胃炎
食べたものや消化液が吻合部を超えて口側に逆流し、食道や残った胃に炎症をおこすことがあります。胸やけ・吐く・みぞおちの痛み・食事が通らないなどの症状がみられます。就寝直前の食事をさけたり、薬で治療します。
貧血
鉄分や蛋白質の不足、胃全摘術によるビタミンB12の吸収障害によって生じます。

化学療法(抗がん剤治療)

抗がん剤治療は、以下の目的に応じてがん細胞を殺す薬を内服したり注射したりします。それぞれの患者さんや腫瘍の性質によって抗がん剤の効き目や副作用の程度が異なりますが、これは実際に投与してみないとわかりません。よって抗がん剤治療を行いながら、その効果と副作用の程度で抗がん剤の種類を変更していきます。

手術後の再発予防(術後補助療法)

いくら手術で取り切れたように見えても、目に見えないがん細胞が残っている可能性があり、これらを死滅させて再発を予防する目的で、手術の後に化学療法を行います。ステージ2・3の患者さんが対象となります。抗がん剤の1年間内服が基本です。

 

進行がんに対する手術前の治療(術前化学療法)

進行胃がんでは、手術する前に抗がん剤治療を行って、できるだけがんを小さくしてから手術を行うこともあります。術前化学療法に必要な期間は約1~数ヵ月です。内服薬と点滴の併用療法などの抗がん剤を用います。

 

切除できない進行・再発胃がんに対する化学療法

手術でがんをとりきれない患者さんや再発した患者さんに対しては、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤による化学療法が治療の中心となります。多くの場合、何種類かの抗がん剤を組み合わせて使用します。用いられる抗がん剤としては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などがあります。

 

 


治療後の通院と検査

手術前に行ったX線検査やCTでは、微小ながん細胞は100%とらえることができず、手術でがんを全部取り切ったと判断しても,少数のがん細胞が体内に残っていることがあります。再発とは、術後その残っていたがん細胞が少しずつ大きくなって目に見えるようになることです。そこで、4~6ヵ月間隔で再発の発見のための診察・検査が必要となります。
 

5年経過した時点で再発や転移を認めない場合、5年以降でがんの再発することはほとんどありませんので、終診(当科での治療は終了)となります。
 

また、ステージ4の方や術後に再発が出現した方には、部位や症状、初回治療法およびその効果、また年齢や全身状態などを考慮して治療法を選択します。もう一度手術を行うことはまれで、ほとんどは抗がん剤治療となります。
 

また、がんによって生じる体の不調(痛みや苦しみ)や心の問題(不安やうつ状態)に対しては、それらの症状をやわらげる緩和ケアを並行して受けていただくことがあります。
 

当医療センターでは、胃がん術後地域連携パスを行っています。これは、地域のかかりつけ医と当医療センターが協力して患者さんに安心で質の高い医療を提供するものです。患者さんの詳細な情報・状態・治療経過などをやり取りしながら、普段の診察・投薬はかかりつけ医、定期検査は当センターで受けていただくようにしています。



食道がんとは

1)食道の構造と機能

食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ 25cm ぐらい、太さ2〜3cm、厚さ約4mm の管状の臓器です。食道の大部分は胸の中、一部は首(約5cm)、一部は腹部(約2cm)にあります。食道は身体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。

食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと、筋肉でできた食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口には、胃内の食物の逆流を防止する機構があります。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。

2)食道がんの発生と進行

食道がんは食道の真ん中~下1/3 に最も多く発生します。がんは食道の内面をおおっている粘膜から発生します。がんが大きくなるとこの粘膜を超えてその外側にある粘膜下層、さらに筋肉の層へと入り込みます。もっと大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで拡がっていきます。食道の周囲には気管・気管支や肺、大動脈、心臓などの非常に重要な臓器が近接しているため、食道壁の外にまで拡がるとすぐにこれらの臓器にも入り込んでいきます(浸潤)。粘膜と粘膜下層に留まるがんは表在がん(粘膜に留まるものは早期がん)と呼んでいますが、筋層にわずかでも入ったものはすべて進行がんと呼ばれます。従って進行がんと言っても、早期がんに近いものから末期がんにいたるまでさまざまな進行程度が存在します。


がん細胞はもともとの場所(原発巣)から生きたまま離れていく性質を持っています。食道壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富であり、がん細胞はこのリンパ液や血液の流れに入り込んで食道を離れ、食道とは別のところに流れ着いてそこで増えはじめます。これを転移といいます。リンパの流れで転移したがんは、リンパ節にたどり着いてかたまりをつくります。食道のまわりのリンパ節だけではなく、腹部や首のリンパ節に転移をすることもあります。食道がんの患者さんの半数以上の方にリンパ節転移が存在しますが、それほど遠いところの転移でなければ手術で取ることが可能です。血液の流れに入り込んだがんは、肝臓、肺、骨など全身のあらゆる所に転移しますが、この場合は手術で取ることは不可能となります。


3)食道がんはどのような人がなりやすいの?

わが国で1年間に食道がんにかかる人はおよそ9,000人で、これは胃がんの10分の1の発生頻度です。年齢別にみた食道がんの罹患(りかん)率・死亡率は、ともに40歳代以降増加し始め60歳代の方が最も多く、男性は女性の5倍以上です。

 

食道がんにかかる原因ははっきりとは特定できませんが、飲酒喫煙をされる方が多くかかるといわれています。50 歳以上の男性で、たばこを吸う方、お酒をたくさん飲む方は食道がんにかかる可能性が高くなりますので、内視鏡検査を受けることをお勧めします。しかし、飲酒や喫煙をされない方でも食道がんにかかる人はいます。

また、食道がんの患者さんは咽頭(のど)や口、喉頭などにもがんができやすいことがわかってきました。


進行度(ステージ)

食道がんの治療法を決めたり、また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定する場合、病気の進行の程度をあらわす分類法、つまり進行度分類を使用します。わが国では日本食道疾患研究会の「食道がん取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています。各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定します。

0期
がんが粘膜にとどまっており、リンパ節や他の臓器にがんが認められないものです。いわゆる早期がん、初期がんと呼ばれているがんです。
I(1)期
がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器にがんが認められないものです。
II(2)期
がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ていると判断された時、あるいは食道のがん病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみにがんがあると判断された時、そして他の臓器にがんが認められなければ II 期に分類されます。
III(3)期
がんが食道の外に明らかに出ていると判断された時、食道壁にそっているリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され、他の臓器にがんが認められなければIII(3) 期と分類します。
IV(4)期
がんが食道周囲の臓器におよんでいるか、がんから遠く離れたリンパ節にがんがあると判断された時、あるいは他の臓器にがんが認められたら IV(4) 期と分類されます。

必要な検査

食道がんの診断やがんの拡がりぐあいを調べるためには下記のような検査を行います。また予定する手術を安全に行うために必要な検査として心電図、呼吸機能検査、血液検査などを行います。

1)食道造影検査(レントゲン検査)

バリウムを飲んでレントゲンで撮影する検査です。食道がんの存在する位置や狭窄の程度などを判断するうえで重要な検査です。

2)内視鏡検査(胃カメラ)

内視鏡検査では、がんの一部を小さくつまみとって、顕微鏡でがん細胞の有無をチェックします(生検組織診断)。がん細胞を顕微鏡で確認して初めてがんと確定診断されます。また内視鏡検査時にルゴール液を食道に散布すると、正常の粘膜は茶褐色に染まりますが、がんの場所は染まらずに白くぬけて見えるため小さながんも発見することができます。但し、ルゴール液を散布した時は胸が熱く感じたり、えずいたりしますので多少の我慢が必要です。

3)CT 検査

CT(コンピューター断層撮影)は身体の内部を輪切りにしたように見ることができる X線検査です。がんと食道周囲臓器との関係やリンパ節転移や肺、肝臓などの転移を調べるためには最も優れた診断法です。造影剤を注射して撮影するため、アレルギーが出現することがあります。比較的楽な検査です。

4)超音波検査

超音波検査は腹部や首(頸部)について行います。腹部では肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無などを検索し、頸部では頸部リンパ節転移を検索します。比較的楽な検査です。

5)気管支鏡検査(通常は行いません)

進行がんでは食道の前にある気管にがんが及んでいるかどうかを調べるために気管の中を内視鏡で見る検査をすることもあります。

6)PET-CT 検査

がんは正常細胞よりも活発に増殖するため、そのエネルギーとしてブドウ糖を多く取り込みます。PET 検査では放射性ブドウ糖を注射し、その取り込みの分布を撮影することでがんを検出します。食道がんでも進行度診断での有効性が報告されています。

治療

食道がんの治療には大きく分けて、4つの治療法があります。それは、内視鏡的治療(胃カメラ)、外科治療(手術)、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)です。それぞれの治療法には長所と短所があり、どの治療法を選択するかはがんの拡がり具合と身体の状況により違います。これらの治療を組み合わせて行う場合もあります。病気の状態や体力をよく調べてから、十分に説明させていただいたうえで、それぞれの患者さんに一番適した治療法を受けていただきます。ご本人が望まない治療を無理に受けることはありません。

内視鏡的治療

内視鏡的治療は、内視鏡(胃カメラ)で見ながら食道の内側からがんを含む粘膜・粘膜下層までを切り取る方法です。内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とよばれます。この方法を行うにはがんが粘膜までにとどまっていることとリンパ節転移のないことが必要です(ステージ0期)。がんが食道の粘膜の表面(粘膜上皮と粘膜固有層)までにとどまっていればリンパ節転移もほとんどないと言われており、この治療が適応となります。但し、切除した組織を顕微鏡で検査した結果、治療前の診断と異なりがん病巣がより深くに及んでいれば、リンパ節転移が存在する可能性もあり、外科治療(手術)や放射線療法(+抗がん剤治療)を追加します。当センターでは消化器内視鏡の専門医がこの治療を行っています。

外科治療(手術)

手術は身体からがんを切りとってしまう方法で、食道がんに対する現在最も一般的な治療法です。手術ではがんを含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後には食物の通る新しい道を再建します。食道は首、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。

1)手術の種類

○頸部食道がん(首の食道がん)

がんが小さく頸部の食道にとどまり、周囲へのがんの拡がりもない場合は、のどと胸の間の頸部食道のみを切除し、同時に頸部のリンパ節郭清を行います。切除した食道のかわりに腹部より小腸の一部(約10cm)を移植して再建します。なお、移植小腸の血管は頸部の血管とつなぎ合わせます。のどの近くまで拡がったがんでは頸部食道とともに喉頭(声帯のあるところ)も切除するため声が出せなくなります


○胸部食道がん

手術は以下のように行います。食道は胸の中にあるので、まず胸の手術をします。右の胸からアプローチし、右肺をよけて奥にある食道とまわりのリンパ腺を切り取ります。がんが食道の上の方にあっても下の方にあっても、胸の中の食道は殆ど切り取ります。胸の食道を切り取った後は胃を首まで引き上げて食べ物の通り道を新しくつくります(再建)。このため、胸に続いてお腹の手術を行います。胃の血流を保ちながら胃の周りを切ってぶらぶらにし(胃管作成)、その先端を首まで引き上げます。首にもメスを入れ、のどの下で切り放した食道と胃管を繋ぎます(吻合)。何らかの理由で胃を持ち上げて再建することができない時には大腸や小腸を首まで持ち上げます。胃や大腸、小腸を引き上げる経路は、もとの食道があった心臓の後ろの経路(後縦隔経路)か、胸骨の後ろで心臓の前を通る経路(胸骨後経路)、もしくは前胸部の皮下を通る経路(胸壁前経路)のいずれかで、その時の状況により選択されます。胸部食道がんでは、腹部や頸部のリンパ節にも転移をおこすことが多いので、腹部や頸部のリンパ節も郭清します。このように胸部食道がんの手術は胸部、腹部、頸部の操作が必要となるので手術はとても大きなものとなります。手術時間は 8 時間程度が目安ですが、症例によって異なります。


食道切除と胃管による再建

 


自動縫合器を用いた胃管作成

 


内視鏡手術(鏡視下手術)

 


従来法では、右胸に20cm、お腹に15cmほどの皮膚切開を加え、さらに肋骨も 1 本折って手術を行います。しかしながら、当センターでは、最先端の技術により、胸腔鏡下および腹腔鏡下手術にて食道がんの治療を行っています。

胸腔鏡下手術はまず、右胸に直径1cmの穴を開けてテレビカメラを挿入し、胸のなか(胸腔内)をテレビに映します。このテレビ画面を見ながら、さらに直径1cm程度の穴を5個開け、その穴から特殊な手術器具を挿入して、従来法と同じことを行います。腹腔鏡下手術はお腹に6cmの小切開を加え、ここに術者の左手だけを挿入し、テレビ画面を見ながら手術を行います。この手術では傷が小さいため、術後の痛みが少なく、回復も早くなります。ただし、手術そのものには高度な技術が必要となります。


従来法(開胸開腹手術)

胸腔鏡、腹腔鏡下手術


○腹部食道がん

腹部食道のがんに対しては、みぞおちからおへそまでの上腹部切開に加えて右側または左側の胸部切開を行う方法か、腹部のみの操作で経食道裂孔的に行う方法があります。切除の範囲はがんの発生部位、大きさ、進行度にもよりますが、食道の下部と胃の噴門部(入り口に近いところ)を切除し、残った胃を持ち上げてつなぐ方法や、食道の下部と胃の全部を切除し、小腸を持ち上げてつなぐ方法などがあります。


2)手術の合併症
手術に伴っていろんな困ったこと(合併症)が発生してくる可能性があります。合併症を起こさないように最大限の努力はしていますが、100%安全な手術というのはありえませんので、何卒、ご了承ください。以下に起こる可能性のある合併症のいくつかについて述べます。

出血:食道を切除する際には、多くの血管を切る必要があります。術中出血量はがんの部位や進行度、患者さんの状態によって変わりますが、出血量が多い場合には輸血が必要となります。この際、日本赤十字社から安全性が確認された血液を必要最小限度のみ輸血させていただきますが、この輸血も 100%安全なものとは言えません(輸血の説明書を参照)。また、術後に出血が起こって再手術(止血術)が必要となることがあります(頻度は1%以下)。

 

感染・肺炎:どのような手術でも術後に創部や肺などに細菌が増殖して感染症をきたす可能性があります。予防的に抗生物質を投与しますが、食道がんの手術では 10%程度の患者さんに肺炎が合併します。これは、(1)開胸手術、(2)喫煙、(3)気管に入る血流や神経の切離、(4)声帯の運動をつかさどる反回神経の損傷による誤嚥など(後述)が原因で肺に痰が貯まって発生します。万一、肺炎がひどくなった場合には一時的にのどを小さく切開し(気管切開)、直接、気管内にチューブを挿入して人工呼吸器をつけることもあります。気管切開すると声が出せなくなりますが、肺炎が良くなってチューブが抜ければ、声は出せるようになるので心配はいりません。肺炎を予防するためにまずは禁煙を厳守してください。これが最も大切です!それと手術の前に鼻の中や痰の細菌検査を行い、除菌軟膏を鼻の中に塗っていただきます。また、術前後に理学療法士の指導で呼吸の訓練もしていただきます。

 

縫合不全(繋ぎ目からの漏れ):食道断端と胃管、大腸、小腸などを繋ぎ合わせる(吻合する)際には器械を用いたり手で縫ったりしますが、この吻合部から内容液が少し漏れる(縫合不全)ことがあります(頻度は2%程度)。このような時には多くの場合、絶飲食で縫合不全部が自然治癒するのを待ちますが、これにより入院期間が長くなります。また、どうしても傷が治らない時には再手術の可能性もあります。この縫合不全が起こる確率は糖尿病患者さんや化学放射線療法後の患者さんでは高くなります。

 

反回神経麻痺:声帯の運動をつかさどる反回神経の周囲にはリンパ節転移が起こりやすく、これを取ることにより反回神経が麻痺することがあります。症状としては声がれ(嗄声)が起こります(10%程度)。多くの場合は数ヵ月で治りますが、長引くこともあります。また、反回神経麻痺がひどいと誤嚥(食べ物が気管に入ること)が起こり、これが肺炎の原因となります。

 

術後せん妄:食道がんの手術ならびに術後は患者さんにとってかなりのストレスとなります。これが原因で、術後せん妄(意識の混乱による突飛な言動)が起こることがあります。ひどくなれば、やむを得ず、身体をベルトで固定(身体拘束)しなければいけないこともあります。これを防ぐには、術後はしんどくても、昼は起きて夜に寝るという1日のリズムを崩さないことが大切です。

 

吻合部狭窄:食道断端と胃管などとの吻合部は術後しばらくしてから、徐々に狭くなり食べ物の通りが悪くなることがあります。多くは退院後に起こります。このようなことが起こった場合は胃カメラで見ながら狭いところに特殊な風船を挿入して膨らませることにより通りを良くする治療(ブジー)を行います。入院する必要はありません。

 

乳び胸:食道のすぐ横に胸管という最も太いリンパ管が走っています。この胸管は下半身のリンパ液を集めて左の鎖骨の下にある静脈に合流します。食道がんの手術では、この胸管の枝が切れて術後に乳び(腸管からの脂肪球を含むリンパ球)が多量に漏れることがあります。通常は自然に止まるのを待ちますが、稀に再手術(胸管結紮術)が必要となることもあります。

 

アレルギー:手術の際に使用する色々な薬剤が原因でアレルギーを起こすことがあります。非常に稀ですが、アレルギーにより血圧が下がり、手術を中止することもあります。

 

肺塞栓:長時間の手術や腹腔鏡による手術は脚の静脈に血のかたまり(血栓)が生じやすく、この血栓が肺動脈に流れて閉塞する疾患です。これにより呼吸困難などの症状を呈し、死亡することもあります。予防策として足の間欠的空気圧迫法を行っていますが完全に予防することはできません(頻度は1%以下)。

 

その他:上記以外にも癒着による腸閉塞や抗生剤投与などによる肝機能障害、さらに成人病のひとつである脳梗塞、心筋梗塞、また胃管壊死胃管気管瘻など致命的な合併症が発生する可能性もあります。これらの合併症が原因で死亡に至る頻度は 1-2%と思われます。この合併症の発生率は、手術前に他の臓器に障害をもっている人や化学放射線療法後の患者さんでは高くなります。

万一、このような合併症が起こった場合は、詳しく説明したうえで、できるだけ早く回復されるように最大限の努力しています。
 

3)手術後の経過

全体の流れ:手術が終わったら、多くの場合、気管内挿管(全身麻酔をかけるためにチューブを気管内に挿入します)したまま集中治療室(ICU)に入ります。患者さんは呼吸状態がよければ当日夜に目を覚まし、気管内のチューブが抜かれると声が出せるようになります。翌日より座ることが可能です。ICU に入室された患者さんも問題がなければ、数日後に病棟に移動します。このころには歩行もできるようになります。術後4-5日経てば飲水、食事も開始となり、早ければ2週間で退院可能な状態となります。術後3週間以内に退院することを目標としてください。

 

ドレーンなど:手術後は身体にいろいろなチューブが入っています(手術のページを参照してください)。術後数日経過すると腹部のドレーン、鼻のチューブ、頸部のドレーン(初めからないこともあります)などが抜けるので動きやすくなると思います。酸素のチューブも呼吸状態がよくなればはずれます。胸のドレーンも排液量が少なければ1週間以内に抜けます。食事がうまく取れるようになれば点滴も必要なくなります。腸に入った栄養チューブは3週間過ぎないと抜けませんので多くの場合は退院後に外来で抜くこととなります。退院時にこのチューブが入ったままでも全く問題はありません。入浴等も可能です。

 

食事開始:手術直後は飲水や食事ができません。食事が食べられるようになるまでは、手術中に小腸に挿入した栄養チューブと点滴より水分と栄養を補います。順調に経過すると術後4~5 日で飲水できるようになります。これと同じ頃に頸部食道と胃をつないだ部分がうまくつながっているかどうかをレントゲンに写る薬を飲んでもらって検査をします。これで問題がなければ、嚥下食(ゼリー、ペースト食)から開始し、徐々に食事内容をアップさせていきます。必要に応じて嚥下リハビリを行います。

 

創の痛み:手術の後は傷が痛みます。痛みをやわらげるために、手術直前に背中から背骨にある硬膜外というところへチューブを挿入し、術後はここより麻酔薬を持続的に注入します(硬膜外麻酔)。これでも痛ければ痛み止めの薬(座薬や注射)を使用します。薬の効き方には個人差があります。痛み止めを使うことの悪影響はほとんどなく、痛みのために深呼吸や咳払いがうまくできなくて肺炎になることのほうがかえって問題です。痛み止めを十分に使って痛みをおさえ、可能なかぎり体を動かして深呼吸や咳払いをして肺炎を防ぐことが最も大切です。

 

退院後の食事摂取:食道がんの手術を受けると手術する前と同じような食べ方はできません。一度に多くの量を食べられないことも多く、食事が喉(吻合部)で少しひっかかるような感じがすることもあります。慣れるまでは時間をかけて少しずつ食べるようにし、一日の食事回数を5~6回に増やしてください。また、食後すぐに横になると胃管から口の中へ食べ物が逆流してくることがあります。食後30分は横にならないようにしましょう。1日の食事摂取量が十分でない時は濃厚流動食でカロリーを補給してください。

退院後:退院された後は定期的に外来で診察や検査を受けていただき、再発がないかどうかをチェックします。いくら手術で取り切れたように見えても、目に見えないがん細胞が残っている可能性があり、これが再び増えると再発ということになります。再発をできるだけ少なくするために抗がん剤や放射線の治療(後述)を受けて頂くこともあります。術後に抗がん剤の治療を点滴で行う場合には再度入院が必要となります。

 

化学療法(抗がん剤治療)

抗がん剤治療はがん細胞を殺す薬を注射します。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切りとれないところや放射線を当てられないところにも、全身に行き渡ります。肝臓や肺などにがんが転移している場合や手術前の治療、術後の再発予防として行われます。入院が必要な場合は当センターの関連病院で受けて頂くこともあります。

1)化学療法単独で行う場合

抗がん剤治療は、何種類かの薬を組み合わせて使うほうがよく効きます。抗がん剤として現在、FP 療法とよばれるフルオロウラシルとシスプラチン(またはネダプラチン)の併用療法が最もよく使われています。フルオロウラシルは点滴の中に混ぜて4~5日間続けて注射します。シスプラチンは第一日目に投与しますが、腎臓の障害を防ぐために一日に 2,500~3,000ml の点滴を同時に行います。この治療は入院が必要です。これが1回分の治療で、3週間ほどの休みをおいてもう1回行い、効果があればさらに繰り返します。副作用の程度によっては途中で中止することもあります。効果がない場合は別の抗がん剤に切り替えます。

最近では、これらにドセタキセルを組み合わせた併用療法(DCF 療法)も行っています。
 

2)抗がん剤の副作用

最も注意が必要な副作用は血を作っている骨髄というところが抗がん剤によって障害され、白血球、赤血球、血小板が減少します。白血球が減少すると(軽症も含めて頻度は40~50%)感染に対する抵抗力が低下し、肺炎などを引き起こします。赤血球減少は貧血、血小板減少(軽症も含めて頻度は 40~50%)は出血しやすくなります。但し、抗がん剤投与中は定期的に血液検査を行い、これらの副作用が強く現れる前に抗がん剤を中止して血球減少に対する治療を行うため大きなトラブルはほとんど起こっていません。その他の副作用としては口内炎、はき気、食欲不振、全身倦怠感、下痢、手足のしびれ、皮膚あれ、シミ、肝・腎機能障害などが認められることがあります。ドセタキセルでは脱毛も出現することがあります。これらの副作用の程度には個人差があり、実際には投与してみないとわかりません。また、効果と副作用は比例するものではなく、副作用がないのに非常に効果がある場合もあれば副作用ばかり強くて効果が少ない場合もあります。

 

 

化学放射線療法

放射線治療は単独で行うより抗がん剤と併用する(化学放射線療法)ほうが効果が高いため、通常は化学放射線療法として行われています。放射線は身体のどこにでも当てられるわけではなく、肺や肝臓などへの転移が存在すればこの治療の適応にはなりません。化学放射線療法を行うのは、がんが気管や大動脈などに浸潤して手術では取りきれない場合、手術をのりきれるだけの体力がない場合、手術を望まない場合や術後に再発を予防する目的で行います。この治療により7〜8割の患者さんでがんの大きさが半分以下になります。

1)化学放射線療法の実際

放射線療法の1回の治療は準備も含めて30分以内に終わります。一週間に5回照射し、術前化学放射線療法として行う場合は約4週間、化学放射線療法で根治を目指す場合は6〜7週間行います。抗がん剤治投与は放射線治療と同時期に行います。

2)放射線療法の副作用

放射線療法の副作用としては、のどの痛みや乾き、飲み込む時の違和感、疼痛、声のかすれ、照射部(首と胸)の皮膚の日焼け様症状、放射線肺炎などが出てきます。その他に身体のだるさ、食欲低下といった症状を訴える方もいます。化学放射線療法の副作用は抗がん剤の副作用と放射線の副作用の両方が出現します。特に白血球減少や血小板減少などの骨髄抑制がより強く起こり、治療の途中で治療を中止することもあります。但し、治療が途中で中止となった場合でも十分な効果が得られることもあり、心配はいりません。

 

 

ステント治療

がんによって食道の内腔が狭くなり食べ物が通らなくなった場合に、金属の網でできたパイプ状のもの(金属ステント)を食道の中に留置して食物が通過できるようにする方法です。がんの進行で食道に穴があいて食物が外に漏れて肺炎などをおこす場合にも、穴をおおうためにこのステントを挿入することがあります。方法はまず、レントゲン室にて胃カメラを用いながら特殊な風船を膨らませて狭窄部を一時的に広げます。次に細く縮こませたステントを挿入し、レントゲンで確認しながらこれを広げていきます。処置時間はだいたい 1 時間以内でその間は静脈麻酔薬を注射しますが、全身麻酔ではありませんので時に苦痛を伴うこともあります。また、稀に誤嚥をおこして肺炎になることがあります。問題がなければ翌日より水を飲むことができ、3~5日程度で食事も食べられるようになります。ステントが広がると胸の痛みを感じることがありますが、鎮痛剤で対応します。また、食道がんが気管に浸潤することによって気管が狭くなることがあります。気管の狭窄は窒息を引き起こすので、この場合も気管の狭窄部に上述の金属ステントを挿入します。場合によってはシリコン性ステントを挿入することがありますが、これは手術室で全身麻酔をかけて行います。

ステントを留置したことによるトラブルはそれほど多くありませんが、穿孔(食道に穴が開く)のリスクやステントの位置がずれたり、再び狭くなってもう1本ステントを挿入しないといけない場合もあります。また寝た時に食べたものが逆流して吐いたりすることがあります。ステントを入れた後に化学放射線療法を行うと食道に穴があく場合があるため当センターでは行っていません。

治療後の通院

治療が終了して退院された後は、定期的に当科の外来に通院していただきます。退院してしばらくの間は 2~3 週間に1回程度の間隔です。外来で経過を観察しながら、いろいろな検査も受けていただき、再発がないかどうかをチェックしていきます。検査や次の診察日についてはその都度、説明いたします。再発もなくからだの調子も良好な場合は、診察の間隔は3~6ヶ月に1回程度となります。調子が悪くて入院が必要な場合は、特殊な治療が必要なければ関連の病院に入院していただくことになります。